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[コメント] アルテミスの膝(2007/伊=仏)

なんとコスプレはなくなり朗読者が私服で森の中へ登場するヴァージョンアップ(アップなのか)。らしいギリシャ神話もので欧州文化ど真ん中、パヴェーゼ作は話自体がとても面白い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作はパヴェーゼ「レウコとの対話」の一篇「野獣」。「私の狂気の国に驚くな」。白髪のふたりが森のなかで向かい合い。神はこちら向きに顔を見せ、エンデュミオーンとか呼ばれる男は半身で後ろ向き。この配置は奇怪で、普通は逆だろう(本邦では天皇は後ろ向きに登場し、下々はご尊顔を拝さないという演出が多用される)。私服も含め、脱神話化の演出と取らまえていいのだろうか。

「野獣の性、それ以外に我々は知らない」と森で会った斜交いの女の死の微笑みが語られ、「今も女は眼の前にいる。神性と野獣は人間を消し去る。二度と目覚めるな」と神が云う。「今夜は彼女に会える」。死んだら野獣の性から逃れて肉のない国へ行ける、という常識が覆されている。死んでも死にきれない恐ろしい悲劇だが、女好きの喜劇とも取れる。

エンデュミオーンはギリシャ神話の登場人物。「ある日、山の頂で寝ていたエンデュミオーンを見たセレーネーは、恋に落ちた。自分とは違い、老いていくエンデュミオーンに耐えきれなくなった彼女は、ゼウスに彼を不老不死にするように頼んだ。ゼウスはその願いを聞き入れ、彼を永遠の眠りにつかせた。以降、毎夜セレーネーは地上に降り、眠るエンデュミオーンのそばに寄り添っているという。」(Wiki)。本作はこの悲話のノーベライズの由。斜交いの女がセレーネーなのだった。

ここでも鳥は進行に関係なく鳴き続け、緑を通して陽光が溢れる。無人の森をキャメラはパンし、石碑が途中に見える。OPが終わっても黒画面でオペラの独唱を延々と流すという最初から天衣無縫の演出で、これはEDでも軽く回想される。

(評価:★5)

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