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[コメント] 七つの弾丸(1959/日)

東映実録ものの初期の秀作で助監督深作とは出来過ぎた話。ドキュタッチ生々しく三國が冴えまくり、犯罪被害者の悲痛な記録も思えば深作っぽい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







まず中盤、三國が神戸をさまよう件が素晴らしい。神戸らしい坂道で疲労の余り尻餅ついて倒れ(このショットも長い)、交番に担ぎ込まれて控室で横にしてもらうが、顔の横に交替する警官の拳銃がゴロンと投げ出されて目を覚まし、盗むか盗まないか、破格に長い長い逡巡が顔アップで捉えられる。そして拳銃に飛びかかる際、警官の察知して格闘になるタイミングが説明抜きの素早さで展開される。

それからクライマックス、三國の銀行強盗実施のアクシデント続きが実にリアルでいい。図らずも一人目の逃げるタクシー運転手射殺する登戸方面、こんな処まで行く積りはなかっただろう。このときすでに犯行延期を決めているはず(交番に想定より警官が多かったと)なのだが、舞い戻って犯行を続ける。映画のミスなのかも知れないという疑いもあるが、もう三國は無茶苦茶になっているので、構わなくなっているのだった。

交番の警官(高原駿雄)も射殺する積りはなかった。そして三國はこんなに狼狽えているのに、銀行内の強盗は実にスムーズに実施される。平面図みながらイメージトレーニングしていた前段が効いている。カウンター後ろ向けに尻で滑る演技など機械のように正確で、しかし顔だけは凍りついている。さすが三國と唸らされる。行員(今井俊二)を射殺。そして逃走のために待たせておいたはずのタクシーが(銃声聞いて)いなくなって、袋抱えて徒歩で逃げまくるのがすごい。準主役の神風タクシー運転手(伊藤雄之助)は、どうでもいいような逃走のドタバタのなかであっさり殺されるのだった。

気になる点がふたつ。三國はまず、浜松・名古屋と強盗して、残りの銃弾は九つと報道され、そこから鉄橋の下で二発の試し撃ちをして「七つの弾丸」というタイトルになる。しかしこの試し撃ちは必要だったのだろうか。弾もったいないじゃんと思ってしまうのだが。実録だから仕方ないけど。それから最後に、被害者の家族の末路が描写されるのだが、なぜそこに加害者の恋人の久保菜穂子が欠けていたのか気になった。

映画は三國と並べて、被害者である伊藤、今井、高原の被害者三人も同じ比重で描写を積み上げた。別の男とさっさと結婚した今井の彼女の能沢佳子、狂ってしまう(当時らしい断定だろうが)今井の母村瀬幸子(結婚式に拘る造形の好演で印象に残った)。そして殺された伊藤雄之助の妻菅井きんの万引き、子供たちの眼前で捕まるデパートの階段のラストは見ていられない悲惨。やり過ぎにも見えるが、当時の陽の当たらぬ犯罪被害者への共感と告発なのだろう。このやり過ぎも深作に引き継がれた。

新橋は高速の高架がまだ架からず新橋が見えるショットがあった。神戸のTOA ROADのアーチも見えた。どちらもいい映像記録(セットではないと思う)。銀行のシャッターを手回しハンドルで開閉しているのがいいショットで昔っぽい。交番の横の看板に「注意の一秒 怪我一生」と「の」が入っているのが面白かった。

大阪北浜銀行ギャング事件の映画化だが、しかし事件の犯人は在日コリアン。久保に当たる医者志望の恋人は、犯人の出自を知っていなくなってしまったとのこと。こちらのほうが劇的であり、当時の映画界が何をタブー視していたかがよく判る逸話。映画の終盤に久保が登場しないのは別の意味と思われる。この辺りの事情は木全公彦氏のコラムに詳しい。

http://www.eiganokuni.com/kimata/96-1.html

(評価:★4)

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