[コメント] 斬人斬馬剣(1929/日)
民衆−挿入字幕では百姓−は代官の圧政に苦しめられ、反抗しようとしている。彼らを助けるように、主人公の浪人・十時来三郎−月形龍之介は、辻斬りをし、悪い侍たちを倒す。代官は月形を討つために侍を雇う。また、反抗する百姓への見せしめとして、既に捕らえた者たちを河原で磔けにしようとする。一方、城中では、殿の妾・お杉の方と城代が、まだ小さい若殿の毒殺を謀る。これを知った月形は、若殿の殺害も河原の磔刑も阻止しようとする。要約するとこんなところだが、多分、現存版は連続した2巻、3巻が発見されたということではなく、ダイジェスト版か、あるいはその断片なのだろう。
まず、本作においても、時間経過の表現としてディゾルブ繋ぎが頻出するという点を指摘したい。これはサイレント末期の世界的流行でもあったろうが、本邦では「伊藤話術」の粋と云いたい(3年後の『御誂治郎吉格子』辺りになると、それが決定的になる)。この現存版では、単なる時間経過だけでなく、子守唄を唄う女性のロングショット(画面上部に歌詞が字幕で示されるという面白いショット)に続けてディゾルブを使い、百姓たちに行動を促す和尚のアップを繋ぐといった、緩急をつけるような効果を狙った使い方も試されている。
他にも驚くべき画面造型をいくつか例示しておこう。冒頭近く、お縄になった人たちが曳かれて行く超ロングショットは、画面下に人物を映し、画面上部が大きく空いたものだ。これに対比するように、画面の上部で月形と侍が斬り結ぶという極端な構図のロングショットも出てくる。アクションシーンでは、月形が白馬(芦毛)に騎乗したまゝ城中に押し入り、若殿を救出する場面の沢山の侍たちを映したモブシーンには驚かされる。こゝで、若殿を抱えた月形が、石垣の上から濠にジャンプする演出もいい。あとは、十字架の磔刑を見せる河原の場面もスケールの大きい画面になっている。そして、クライマックスは、月形を含めた3騎が全速力で磔刑場へ駈けるシーンだろう。いつしか諸肌脱ぎになっている月形。こゝのカッティングは大した迫力だ。この後、エピローグがちゃんと残っているというのも有り難い。月形の白塗りの顔作りはちょっとやり過ぎな感もあるけれど、こんな短縮版でもその不敵なキャラ造型の魅力がしっかり感得できる。
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