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[コメント] デデという娼婦(1948/仏)

早朝から早朝への物語は港町の男と女の非情を描いて中の上の出来だが、ラストが生々しく鮮烈で一気に前のめりにさせられた。フレンチ・ノアールを準備したシークエンスに違いない。得点はラストに捧ぐ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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切れ長眼のシニョレ26歳。この人、老年は淡谷のり子さんみたいになるのではと思ったら俄然興味が沸いた霧の港の朝ぼらけ(実際はあんなに肥っておられない)。この冒頭はキャメラ360度回転ができずに編集してしまい、栄光をミゾグチにもっていかれた具合。物語は早朝に始まって早朝に終わる。

このシニョレのヒモマルセル・ダリオの生態が実に興味深い。シニョレと一緒に娼家に寄宿させてもらい、女からは売上巻きあげて自らは戸口で客引き。なんて惨めな奴だろう。店主のベルナール・ブリエも娼婦たちも彼を大いに嫌っている。みんな嫌うからド壺にはまったようにも見え、幾らか気の毒だ。憎らしいのはただ、シニョレの持ってくる儲けを奪ってしまうこと。

話は判りにくい処があり、この冒頭は夕暮れだと途中まで思っていた。娼家に戻って朝飯でやっと判る。仕事明けで、みんなこれから寝るのだった。それからこのヒモの、シニョレの駆落ち相手マルチェロ・パリエーロ(ジャン・ギャバン似)殺害も、被害者が遠景で判りにくい。判りにくさを愉しむ映画でもないだろう。

あと、翻訳の字幕も私の観た版は意味不明の科白があった。ブリエがパリエーロに、シニョレが店辞めたら俺も店畳む予定だと云っているのだが、本当だろうか等々(しかし、逃亡前に店に来たシニョレに彼が云う「許可でも得に来たのか」という科白はとても良かった)。字幕を疑わねばならない外国映画鑑賞はキビシイ。そして科白はしばしば訳されない。外国語は訳さないと決めている例は昔に多いが、英語など訳せばいいのにと思う。

港町には外国人労働者が多い。駆け落ち相手はイタリア人だし、シニョレは何処から来たのか尋ねられて答えない(ベルギー人だったのか。字幕が判り難い)。アメリカ人までいる。アメリカ人が移民、という時代があったのだろうか。シニョレが相手するのはアメリカの脱走兵だった。労働者が喧嘩しているのを見て「喧嘩見るの大好き」と云うシニョレが殺伐としている。

ラストは鮮烈。駆落ち相手を殺されたシニョレは、殴り倒して気絶させたブリエに向かって「こんなの甘すぎる」の怒り。車で引き殺してしまう。ゴットンと車がバウンドして泣くシニョレ。何たる非人情の世界。触感が伴うアイディアが凄くて、忘れ難いものになった(私はバイト仲間の運転する軽トラに駐車場で足の甲を轢かれたことがあるが、あれを思い出した)。最後、車がすれ違う早朝の労働者の洪水のような自転車通勤も印象的。カフカの「判決」が想起された。

(評価:★5)

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