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[コメント] 坊ちゃん(1935/日)

明治らしい悲憤慷慨、殴って逃げる右翼テロルの物語が、嘉次郎流のユルいギャグで描かれる。『けんかえれじい』などとも類縁性があるのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作通りの80分だが冒頭は大いに違う。主人公(宇留木浩)が帰省して、まだぴんぴんしているきよ(英百合子)に松山の愚痴を喋り倒すのだった。彼女が最後に再登場しないのは淋しい。

山嵐に丸山定夫、うらなりに藤原釜足。教頭赤シャツの森野鍛治哉のふにゃふにゃした造形が素晴らしい。坊ちゃんのつけた渾名がいつの間にかみんな使っているのが映画としていいギャグ。赤シャツなら誰が見ても赤シャツなのだろう。何で教頭のくせにフランネルの赤シャツを着るのだろう。

坊ちゃんと山嵐は、生徒らの悪戯(宿直バッタ事件)を穏便に済まそうとする赤シャツに会議で反対して生徒への懲罰を主張し、うらなりの送別会で赤シャツへの鉄拳制裁を計画、夜道で赤シャツの芸者遊びを咎め、「腕力に訴えるとは無法だ」「無法でたくさんだ」一緒にいた野だいこ東屋三郎も「天誅だ」と殴り倒し、汽船に乗って去って行く。

これはテロルである。うらなりからマドンナ取ってうらなりを僻地へ転職させた赤シャツは悪人だが、だからといって夜道でボコボコにしていい訳がない。と私は思うが明治の人はこれを是としたのだろうか。こういう心情は226に直結しているように見える。『けんかえれじい』とも近似する世界だろう。

私の観た版は79分。マドンナの夏目初子は不思議と殆ど登場しない。彼女は最後に赤シャツを捨てて、自分の送別会なのに上座にひとりでいる釜足の元へ走ったと噂された。徳川夢声のエッセイによれば本作でPCLは認められたとのこと。私的ベストショットは宴席での野だいこの踊り連発。このとき芸者の竹久千恵子が三味線弾く前に指をぺろりと舐めるのがいい。

(評価:★3)

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