[コメント] 進軍(1930/日)
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陸軍ほか各飛行学校が山ほど後援している蒲田10周年作品。松竹は戦争協力を嫌ったという伝説があるが、一方でこんな戦争映画もある。
暴走する馬から絹代を救う伝明。派手な背景合成でシュールな味わい。絹代の父は引退政治家、伝明は水呑百姓。絹代の家で催された軍人たちのパーティに参加する伝明(すでに軍人たちと同じ詰襟を着ているのが紛らわしい)。やたら笑う軍人たち、絹代のいいなづけと云われる兵もいる。伝明、嫉妬と侮辱で絹代とも感情のしこりが生じ、親父に東京へ行かせてくれと頼んで煙突から黒煙モクモクの汽船で川下って旅立つ(この大きな河はどこだろう)。
「御国飛行学校」入学、相棒は横尾泥海男。戦争の噂に割烹着の彼女青山万里子と抱き合って怖れている。飛行上達して、村での凱旋飛行。「戦争が始まりそうだって本当かね」と問われて「日本も今までに出来るだけ我慢して来たんですから」「この上の辛抱は大和魂が承知しないからな」と村人たちの声。モロコシ団子断って、絹代に挨拶もせず帰還の途につく伝明。着物で駆けつける絹代、邪魔する親父の藤野秀夫(嫌味の多い男優で苦手だ)。
伝明に召集。宣戦布告の新聞記事。父は息子の召集を母に隠し、母はみんな召集されるのにうちの息子だけなぜと父に尋ねている。1931年より前のこの時期に、すでに多くの召集があったのは不思議な気がする。母は知っていたのだ、の別れ。「お母さんを悲しませたくなかったんだ」「あたしは泣きはしません」と云いつつ泣いている愁嘆場。ここでも絹代を訪問できない伝明。
出征の日。兄の仲介でぎこちない二人の再会。兄をいいなづけと間違えていた伝明。気を利かされてふたりきり。ロマンス再燃描写かと思いきや、いかにもカットされたような不自然な繋ぎで出征に画面が飛ぶ。飛行機に乗ってそのまま出征しているが、その練習機はどうして飛行学校に返却するのだろう。
そして軍隊の戦争演技が延々描写される。進軍進軍と字幕がアップになる。戦場は示されないが当然に中国大陸(ロケはどこだろう)。兵隊と馬車と大砲とトラックとセコい戦車の行列は軍事パレードの様相。ドンパチが始まり、あちこちで白煙黒煙、人海戦術の突撃、匍匐前進、空には飛行機の編隊が行き違う。有刺鉄線をペンチで切りまくり、騎馬隊は突進し、セコい戦車がゴロゴロ進み、ミサイルが発射される。サクサクした編集でここは異常によく撮れている。敵が見えないのも定跡を先駆けたのだろうか。
ただ、肝心のプロペラ機はのんびり。飛行機の羽根の上で伝明とでかおのアクロバットはあり得ないようなアクションで特撮も可愛い。先の陸上戦との差異は激しく、ホークスの空撮とは比べ物にならない。伝明が飛行機で落下しても生きているのが不思議。サイドカー盗んで高田稔乗せて遁走して吹き飛ばされて、次は馬に二人乗り、それから耕運機だろうか。超人的な活躍はさすが東洋のバレンティノ(だっけ)。終盤は暗闇で横並びで機関銃うちまくりの突撃のと、闇雲に盛り上がる。ラストは兵隊が大挙して万歳して「そして輝かしい平和の音」みんなで愉しく汽車に乗って終わってしまうが、そこに横尾泥海男と青山万里子がいなくてもいいんだろうかと甚だ疑問の収束だった。
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