[コメント] 真珠(1947/メキシコ)
もう冒頭の海と浜辺と村人達のカットから、大傑作を予感させる力強さだ。ジョン・スタインベックの原作は既読で見、見終わってから気になって原作を読み返したのだが、海の表現の素晴らしさについては、映画の圧勝だろう。砂浜や岩場と、空と波打ち際のコントラスト。あるいは、海中で真珠を獲るシーンの水中撮影も見所だ。海中シーンは、原作よりも執拗に描かれている。また、原作にない、祭りのシーンの造型も凄い。この花火の演出は狂気的だ。回転する花火が後景にずっと映っている画面が続く。主人公の二人、メキシコ映画の大スター、ペドロ・アルメンダリスとマリア・エレナ・マルケスによる終盤の逃亡譚の厳しさも原作以上。いやはや、矢張り大傑作ではないか。
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ついでに、『マリア・カンデラリア』(1944年、エミリオ・フェルナンデス監督作)の感想もこゝに書いておこう。日本では未公開作なので、登録リクエストするのも憚れますので。
この映画、第1回カンヌ映画祭グランプリ作だ。と云っても、その年、カンヌのグランプリは11本選ばれており、有名なところだと『無防備都市』や『逢びき』、『失われた週末』なんかも含まれる。
本邦ではほゞ認知されていないと思われるのだが、本作もエミリオ・フェルナンデス+ガブリエル・フィゲロアの代表作と云っていいのだろう。正直に云うと、今回、YouTubeのスペイン語版で字幕の自動生成機能を使って見たのだが、日本語に自動翻訳すると、まるで意味が通らないので、英語に自動翻訳して見た(まあ、どっちもどっちということですが...)。
さて、本作は、メキシコシティに近いソチミルコ(Xochimilco)という地域を舞台とする。ソチミルコは今日でも有名な観光地のようで、Webで検索すると、観光地としての情報は沢山集まる。この映画では、ポプラを細くしたような木が沢山ある、周囲とは隔絶した湿地帯で、ちょっと他では見たことがないような、奇妙な風景なのだ。これが、本作の恐るべきストロングポイントというか、スペクタクルを形成する。タイトルロールのドロレス・デル・リオは、娼婦の娘で、他の村人から迫害を受けており、この湿地帯に一人幽閉されているような境遇だ。彼女が小舟に花をいっぱい載せて水路を行く場面の美しさ。調べると、40歳ぐらいのデル・リオだが、20歳の頃(例えば、ラオール・ウォルシュの『栄光』の頃)以上の神々しい美しさがある。そして、一人彼女の味方になっているのが、ペドロ・アルメンダリスで、二人は愛し合っており、幸せな結婚を夢見ているのだが、村の雑貨屋で顔役のミゲル・インクランが二人の邪魔をする。果たして二人は結ばれることができるのか、というお話だ。
上にも書いた、デル・リオの美しさ、舞台(ロケ地)の持つ画としての強さでスペクタキュラーな画面を供給し続けるのだが、例えば、終盤の松明を持った人々を撮った、もの凄いモブシーンなど、演出と撮影の創意も大したものだと思う。投獄されたアルメンダリスが、馬鹿力で牢屋のドアを外して出てくるというような、唖然としてしまう演出もあるが、全体に瞠目すべき出来栄え。傑作だ。
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