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[コメント] 東京難民(2013/日)

大学生への仕送りを突然止めた親を大して追及もせずに中村蒼は難民生活を始める。親子関係を問う、みたいな定跡をはなから排しているのが現代風と思われた。現代の毒親には何云っても始まらないという諦念が全体を覆っている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







中村蒼、父がオンナと逃げて、大学は滞納除籍、仕送りもなくアパートも退去、鍵替えられて荷物は超過料払うまで預かり。即日の金がいるとポスティング始めるもチラシ捨ててパチンコ、という情けない奴。ネットカフェ一泊1500円、1000円。150円バーガーで一晩過ごすよりマシ。煙草をエコーに変えるのがリアル(私もやった)。

ティッシュ配り6時間5400円。通行者の胸の辺りに差し出せ、という金井勇太の先輩のノウハウ伝授があるが、しかしそれで相手は受け取るだろうか甚だ疑問だ。胸小突いてしまって喧嘩になるのではないか。金井は爆弾作っている。「この国、終わっているだろ」。ネットで見つける治験ボランティア。日給2万円で、ベッドで手足伸ばして眠れる。これだけは成功体験として描かれている。中村が序盤、ほとんど一人でいるのがリアルだ。本当はずっとひとりのままな奴が多いのだろう。

夜の町で会った女に明け方のホストクラブに連れ込まれ、268,000円。治験代飛ぶ。高い酒の一気飲み要員。「みんな酒で体壊すんだよ」。雑居アパート生活。堀ノ内に200万円で売られる山本美月救って逃亡。

地方の建設会社。日給8000円、寮費2500円。貧困ビジネス、「一番悪いのは一度失敗したら立ち直れない社会の仕組み」と先輩の小市慢太郎。この行きずりの人たちに味がある。

企業ヤクザがホストクラブから迎えに来て、リンチ。テント生活の小父さん井上順に助けて貰って、抜き取りのアルミ缶回収。以前の10分の1の稼ぎ。狛江駅前のゴミ箱から雑誌拾い。100万円貸してくれた彼女(大塚千弘)がソープ嬢している記事見つけ、駆けつけて彼女にもう一度土下座する。「俺、生きていてもいいですか」。大塚は美人でリアリティがないが、彼女はホストで少しだけハメを外したかった真面目な看護師だったのに。しかしソープでふたり、ホストクラブのシャンパンコールを再現するというのは、何とも云えない終わり方だった。この二人にはあんな素寒貧の思い出しかないという哀れが表現されたのだろうか。大塚はもう、やり直しを望んでもいないのだろうか。この件は悲し過ぎた。

オンナと逃げた父をちらっと回想する収束がいい。こういう話は親子関係を追及するのが一般的な切り口だろうに、本作はそれを排している(序盤に自宅に忍び込む件があったが)のが新しく、現代風だと思われた。毒親に何云っても始まらないのだろう。

(評価:★4)

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