[コメント] 朧夜の女(1936/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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前半に若い二人は殆ど登場せず、坂本武と飯田蝶子の中年兄妹ばかり活躍しているのはなぜだろうと思っていたら、この二人が主役だった。坂本と酒呑みに行ったのがきっかけで、韓流の歌手みたいな飯田の息子の徳大寺伸は、酌婦の飯塚敏子から云い寄られて、結果子供ができる。まかり間違っても、大連へ行ったらいいの。お友達が店もっているのよ、と飯塚は語る。これは最悪の選択というニュアンスがある。
種撒いた伯父さんに相談する甥っ子。「お袋(飯田)には云ったのか」「云えませんでした」「そりゃそうだろう」という頼もしい冗談関係。そして映画はちょうど中ほどで驚嘆の展開になる。なんと伯父が赤ん坊をひっかぶるのだった。
酌婦との間に子供ができたと告白されて坂本の妻の吉川満子は怒り、飯田に愚痴る。まさか自分の息子の関係とは思わない飯田は、坂本の肩を持つ。「恥を世間に出さないのが女房の役」「ここで胸のひとつも叩けばさすが苦労人だと人様も感心する」「無心な子供の心にヒビをいれるほど罪作りなことはない」赤ん坊の頃の徳大寺の写真を見せて、子育ての楽しさを子のない吉川に諄々と説く。吉川は受入、「することが粋だ」と髪結で褒められる。鼻高々の吉川の演技は実に上手い。
坂本は妾宅を構え、飯田蝶子は何くれとなく面倒をみる。嘘はいやだと徳大寺伸ここに駆け込むが、坊やのために黙っていろと飯塚敏子。勉強して偉くなってくださいと繰り返す。そして飯塚は病む。妊娠腎臓炎、尿毒症併発、吉川に看病させるのがいい泣かせである。
彼女の葬式。徳大寺やって来て「このまま黙っていたんじゃ人間じゃありません」坂本「あの女は、お前の将来が大事だから黙っていたんだぜ」「嘘つきでも卑怯もんでも結構じゃないか」「娘のためだ、お袋のためだ。一生しっかりと、お前の胸んなかに収めときなよ」
ラスト、葬式中座した飯田は牛鍋屋で仕事をしている。『一人息子』のように。学問する男とは、ここまでして守らねばならないものなのか、という当時の常識の歪さが心に残る。
縁日の屋台で旭日旗を売っている36年。スナックみたいな酌婦のつく飲み屋をバーと云っており、ジョッキに瓶からビールを注いでいる。飯田蝶子の勤め先の牛鍋屋、そこで放歌して騒ぐ大学生という描写も面白い。飯田の宗派は日蓮宗で、仏壇では細長い枝のような撥で甲高い音のする鐘を叩いている。飯塚の葬式も南無妙法蓮華経。
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