[コメント] 図々しい奴(1961/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
立身出世を夢見て岡山から上京した男杉浦直樹の半生記。昭和14年岡山、やたら大量の女の見送りのなか、ホームを駆けて見事にひっくり返る高千穂ひづるのショットに驚きがある。どうやって撮ったのだろう。車内で男爵の津川雅彦の縁故を得る展開。
二度ある羊羹製造工場の美術が立派。真ん中にお伊勢さんが祭られていて手を合わせ、職人は金太郎のような前掛け姿。杉浦は丁稚、高千穂は押しかけ女房。羊羹好きの子爵東野英治郎は老舗の娘牧が目当てで、羊羹届けさせて「あ、そう」と惧れ多くも天皇パロディを敢行し「苦しゅうない」と抱き寄せている(東野が茶室で稀少切手収集をしている断片があるが、この頃ブームがあっただろうか)。
杉浦救って留置場。津川が頼んで簡単に保釈。家と金をやると云われたのを杉浦断ってこれは借りる、大きくして返す、これが商売じゃと云う処で金儲けと立身出征の主題が色濃く語られている。自分で羊羹屋興し、軍部に介入して儲ける。徴兵されて津川と博多から出航するもすぐ沈没、死んだことにされ方々渡り歩くなか、通りがかりの村で玉音放送という件も印象に残る。
そして次のカットですでにサングラスとアロハ、米軍駐屯地のボスになっているのが笑える。商売の才覚ある者には春が来たのだった。儲ける人とはこういう人なのだろう。自分の名前取って「きりすと商事」。英和のラブレター代筆屋(代書屋の話は『恋文』があった)やヌードの撮影部屋(ストリップはできないらしく、カメラ持った男たちを入場させている)、高千穂はやり手マダム。ドル決済の街で彼女が大量の札束のなかから日本のお札を見つけて「珍しい。お守りに貰っとこ」と懐に入れる件がある。
商売敵が現れたと思いきや津川。牧も現れシスターになっている。終戦直後の日本はキリスト教の時代でもあった。牧は「あんたたちみたいなのがいるから、こんな町ができる」と真っ当なことを云う。軍は一夜にして撤収し、空っぽの歓楽街には遺児がたくさん残された(これは何か事実のパロディのように描かれている)。
牧の聖書が読まれる。「心貧しきものは幸いなり。天国は彼等のものなればなり」。この唐突な件がとてもいい。高千穂は、ここで稼いだ金はここで使おう、銭はいくらでもできると云い、牧の教会に全額渡す。金儲けて善行ができればいいだろうなあという気持ちの良い想像、旦那衆の気分を味あわせてくれる収束というべきか。ラストは証券会社がヘリから月の土地売るビラ撒くという突飛な商魂が披露される。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。