[コメント] 竜とそばかすの姫(2021/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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前作『未来のミライ』は賛否両論が激しく、思ったより興収も伸びなかったようだ。その理由はレビューでも書いたが、監督のフェティシズムがあまりに行きすぎて物語のバランスに欠け、まとまりがなくなってしまった感があったからだろう。監督が作りたいものが視聴者の求めているものから離れてしまったからとも言える。
そんな中での新作はかなりのプレッシャーではなかったかと推測される。ヒットメーカーとしてこの作品を当てねばならないプレッシャーをはねのけて大ヒット作品を作れたのは素直に細田の実力と言って良い。
確かに本作はヒットの要素はたっぷりあって、これが受けない訳がないとも思う。
まずとにかくベルの歌が凄い。主役の声を声優ではなく歌手にした理由がここではっきり分かる。アニメソングとは少し違う不思議な歌声が画面に見事に合致して、それを観てるだけで心地良い。Uの世界はちょっと古くさい感じもするが、見た目に電脳世界と分かる構造なので、これはこれで良かろう。
あと、現実世界での話を高校生活に持って行ったのは受け要素としては正解。これまでの細田監督のヒット作は主人公が高校生なのが多いため、正しい選択だろう。主人公がトラウマを伴う悩みを乗り越えるのと、高校生らしい恋物語が展開するも王道で良し。
本当にこれは受けるために総力を結集させたのだろう。そして狙ってそれが出来るのが細田監督だ。
ただし、それはある意味作家性の後退でもある。受けがあまり良くなかったとは言え、前作『未来のミライ』も前々作『バケモノの子』もとにかく作家性を前面に打ち出し、監督だけしか作れないような個性的な(変態)作品に仕上がっていたが、本作は個性(変態性)を後退させたため無難な感じになってしまった。
これは痛し痒し。作品としての完成度は絶対こっちの方が高いし、楽しめるのだが、どっちかというと作家性を楽しみたい身としてはもうちょっと監督自身のフェティシズムを出してほしかったかと思う。
それと、設定の甘さも多数目に付く。
前述したが、まず電脳世界があまりに古くさい。UのAIは『サマーウォーズ』と変わらないし、もっと言うなら20年前の「デジモン」からほとんど進歩してないので、この20年いったい何をやってたんだと言いたくもなる。Uが何故楽しいのかを描かねばならないはずなのに、Uのキャラクターはみんなぷかぷか浮いて同じ方向に飛んでるだけって、一体何が楽しいのか観ていて全く分からない。それにあれだけ巨大なシステムなのに自衛手段が全くないとかあり得ないことを平気でやってくる。世界的なシステムのくせに欠陥を全て放置するシステムは無理ある。20年ほど前のネット初期の混乱を現代の成熟したネット社会に無理矢理ねじ込んだために、大変歪んだ設定になったのだろう。竜が城や眷属を持つなど、おそらくは相当な相当な財力がないと出来ないことだが、一体その金はどこから出ているのか、そして何故秘密裏にあれだけの巨大な城を作るとが出来たのかも全く説明が無い。「ネットは何でも出来る」という命題が歪んで出ていたため、リアリティがなくなった。
あと言うなれば、主人公すずの性格が最後までつかめなかった。母の死にこだわっている割に父親との関係が単なる拒絶のまま止まってるのも変と言えば変。10年以上もこんな状態で生活出来てる説得力がなくてその空白期間の蓄積がまるで感じられない。母親を失った瞬間からここまで冷凍睡眠状態だったみたいだ。それに人を拒絶するくせに人を信じすぎるとか性格の歪みも説得力なし。そんなすずに対して周囲はまるで腫れ物を扱うように丁寧に扱っている訳だが、すずの我が儘はなんでも聞いてくれ、やりたいと言ったらすぐに背を押す理屈も説得不足。そもそもラストの東京行きなんて無茶なだけ。分別ある大人が存在しない世界。Uより現実世界の方がよっぽどファンタジーだ。
あと、声も俳優を多数使っていることもあって、全般的に声が違和感だらけ。主人公以外は普通に声優使ってくれた方が良かったと思うぞ。
結果として大変歪んだ作品だとは言える。
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