[コメント] 妾二十一人 ど助平一代(1969/日)
主人公は三木のり平で、牛鍋屋チェーン「あかさたな」を経営する立志伝中の人物だ。妾が二十一人おり、各店舗は妾に任せている。中でも、一号店の責任者が中村玉緒で、三木と妾たちの「営み」のスケジュールは彼女がコントロールしている。序列の2番目は二号店の森光子だが、中村との地位逆転を虎視眈々と狙っている。お互いに前身を揶揄しあう。すなわち、中村は、元は北新地の芸妓と自称しており(森は娼妓だったのではないかと疑う)、森は、元旅芸人だ(中村は、漫才師と云う)。本作の面白さは、中村と森の二人の掛け合い芸に拠っているところが大きい。二人とも見事なものだ。また、店舗の序列とは別次元で、最も古い妾は浦辺粂子で、中村と森のどちらにも、有ること無いことをチクってけしかけ、楽しんでいる。
中盤で、ヤクザたちに追われて逃げている吉原の女郎を千五百円で三木が買う(見受けする)のだが、これが佐久間良子。佐久間は帝大生の溝口舜亮と二人で逃げた(足抜けした)のだ。他の妾では、すず役の橘ますみも良く目立つ。三木の秘書・沢本忠雄と店の客の遠藤辰雄とも関係しており、3者が同時に寝間に忍び込むシーンが反復され笑いを取る。ちなみに、沢本は森光子や、森の店の女中、城野ゆきとも関係している、という色男を飄々と演じている。
三木は、本宅の2人の女中にも子を作っていたりするようで、どこまでが妾なのかよく分からない。終盤で、1000人斬りを目標にしてやってきたが、佐久間が1221番目じゃ、と云うシーンもある(その後、1222番目を連れて来る)。また、常に大声でガミガミと叱っており、わしは、ふしだらなことと、助平なことが大嫌いじゃ、と云う。しかし、妾の間男と鉢合わせしても、まるで動じず、怒りもしない。真剣に一人でも多くの女を幸せにしようと考えている、心の大きな(?)人物として描かれているのだ。こんなアンビバレンツなキャラクターだが、さすがは三木のり平、見事に演じ切っており、その芸達者ぶりには惚れ惚れする。特に、佐久間と二人で一緒に泣くシーンは、私も涙を抑え切れなかった。
また、佐久間の出番はそんなに多くは無いが、しっとりとしたシーンが佐久間絡みだけなので、やはり目立っている。鬼灯(ほおずき)を口に含みながら喋っているのか、気怠い台詞回しのディレクションがいいし、溝口舜亮とやりとりの場面で、路地の奥のガス灯に火がともされる縦構図演出なんかでも、彼女だけ、特別感がある。本作もかなり面白い、良く出来た映画であり、監督としての成沢昌茂の再評価が必要と思う。
#小幡欣治の原作戯曲のタイトルは、「あかさたな」。改題の経緯については、Wikipediaの「あかさたな」の項に詳しい。
#僭越ながら、訂正のコメントをさせていただくと、本サイトを含め、多くの映画サイトで、出演者に村井国夫の名前がありますが、この役は、俳優座養成所第15期生同期の溝口舜亮がつとめています。また、同じように、多くの映画サイトに、野川由美子の名前が記述されていますが、これも企画段階の名残りだと思われます。(登録リクエストの時点で気づけば良かったのですが)
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