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[コメント] 妾二十一人 ど助平一代(1969/日)

日本人の大好きな艶笑譚の快作。エロ描写にほとんど力を入れずその分お笑いネタをテンコ盛りにする姿勢が芳しい。妾に囲まれる痩せた亭主という画は『世界残酷物語』が想起される故、これは普遍的な主題なのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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フランキーにホルモン大王と呼ばれる三木のり平のお大尽振り(納税額一位という科白があり)が、朱色の人力車とともに喜劇的に語られる。彼は存外にコメディをせず、周囲のコメディ状態を鷹揚に眺めるという役柄に徹している。日露戦争で夫が死んだのは鉄砲が小さかったからだろう、なんてトンデもないギャグがある一方、のり平は旅順で死んだ父の子を引き取っている。その他も名前を覚えていない子供が店をうろついている。

のり平は老いた妾の浦辺粂子を捨てるかと思いきや正妻の後に住まわせたりする。浦辺はすぐ子供らを怒鳴りつけ、正妻の葬式にうたた寝し、対立する一号妾中村玉緒と二号妾森光子双方に噂を流して喧嘩させたりしている。この二人の喧嘩は愉しい定番。私的ベストショットはふたりの対決の最中に端のほうで水張った桶に尻から落ちる大泉滉を鳥瞰で捉えたショット。

エロ描写はほとんどないが、可愛い橘ますみは着物を落として背中から肩まで晒すナイスショットが二度ある。彼女と遠藤辰雄、のり平と沢本忠雄が夜中に布団を玉突き状態の争奪戦になり、最後は早朝に押入れの襖が倒れて遠藤と橘が現れ、のり平が寝ていた相手は秘書の沢本と知れ、するとのり平は鷹揚にこれを許す、という件がとても素晴らしかった。

佐久間良子のダルなダアダアな造形は素晴らしく、『わが闘争』の芸風を継続させており、本当に生きるのが嫌なのだろうと伝わってくる。のり平は彼女にだけは優しく、甲斐甲斐しく秋刀魚など焼いている。焼きながら日露戦争の歌を唄っている。♪クロポトキンの首を取り、東条大将万歳云々。本妻の葬儀で突然昔の苦労思い出して泣き出す件もあった。

駆け落ちの約束した書生と別れる別れないの口論で狭い路地で揉み合いする件(のり平が落下した桶で頭を打つ)もよく撮れている。ふたりの関係は殆ど揶揄われており(俺は妾を51人囲うぞと書生は云い、仏名画風の劇伴が流れ、佐久間が書生の名前云って劇伴が突然止まる)、世の中を回すのはのり平のようなお大尽であるという世界観が喜劇的に展開されている。遺産分配が終わった後で死んだはずなのになぜか再登場する(汽船沈没からどう帰還したのか説明はまるでない)件もそんなものだ。

本作は佐久間良子退社事件で有名らしいが、私の観たフィルムのOPタイトルはなぜか「喜劇 あかさたな」と改編前のものが出た。原作は戯曲で三木のり平の当たり芝居。そのまた原作は有吉佐和子らしいが何という作品なのかは判らなかった。佐久間はすでに『大奥〇秘物語』(67)にだって出演していて、本作が特別にひどいタイトルではないと思う。積み重なって厭になったのだろう。

野川由美子はどこに出ていたのか判らなかった。牛鍋屋いろはの話で、大広間に小机が並べられた客席が再現されているがなぜか鍋のなかはほとんど映されない。ステンドグラスの店内装飾は大正期の多い日活ロマンポルノを想起させられる。時代設定は明治末年。

(評価:★5)

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