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[コメント] 乱世備忘 僕らの雨傘運動(2016/香港)

それまで香港の抗議デモは権利行使として尊重され、国家安全条例施行を断念に追い込む成果も上げていた。2014年のデモも楽観から始まっており、前半の祝祭性と後半の混乱の対比、前例と違う警官の圧倒的な暴力でもって、この現場参加映画は時代の悪化を記録してしまった。今回の相手は香港ではなく中国だった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







以下、要点整理。

97年に香港は植民地から特別行政区になる。この決定で国外移住者も多かったが、香港人は一国二制度を学び、段階的に普通選挙に移行するのだと学んできた。行政長官選任は正反対の政策だった。この反対デモ、公民広場を守ろうというデモ。

テント設営、お互い名前知らない関係、物資拠点。「自分を犠牲にすることを学んだ。昔は自分の時間が大事だった」とご路上でごろ寝する労働者、高速の登り口付近で寝る面々、「今日のチベットは明日の香港」「真の選挙を」。♪理想を捨てることは誰でもできる というデモの歌に、中国国家が並べられていた。♪敵の砲火に立ち向かえ 同じことを唄っているのにどうよ、と思わざるを得ない。

学生に怒る父は「俺も熱い想いがあるが生活がある」。学生を批判するバス停のオヤジ(こういうキャラはどこにでもいる訳ね)。「民主主義のない人は民族を云う、すると全く話ができなくなる」。学連と政党との対立、「警察は内部分裂を狙っている」。学連と政府会談、黄や周庭もモニターに登場して政府を皮肉る。政府の云い分は「政治の安定と外国勢力の国家転覆防止のため」、これが本邦右派の云い分と同じなのが、面白いというか珍妙と云うか。

本作の多くは警官への批判だ。冒頭から催涙弾、警察を押したと殴られる、カメラに気づくと逃げる警官、「警察も香港人だろ」のコール、「劣勢なら逃げろ」と古典を引用して笑う眼鏡娘、「不法集会だ」対「ここは公共の場所だ」、便所の裏で主催者を私刑する警官集団はカメラに捉えられて報道され、非難を浴びた。警官が市民を殴るとは思わなかったと高校生が泣く。「警官も制服脱いだら市民だろう」と憤る若者。警察は民主警察ではなかった。

市民的不服従、デモの歴史。「デモは反乱ではない。基本的人権だ」日本で生まれ育つと教えられない権利だ。一方、そのニュアンスも参加者で違いがある。「台湾のように国会に突入すべきだ」と語る若者がいる。そして政府庁舎への一部暴徒化。バスチーユ牢獄を想起して参加する奴もなかにはいるのだろう。

中盤、裁判所が占拠禁止、退去しないと法廷侮辱罪の判断を下し、情勢は変わる。占拠は違法行為になった。高校生が語る、「占拠は違法、捕まっても仕方がない、逮捕されてもいい、親は諦めた、でも私は間違っていない」。警察の撤去、並んだゴミトラックへのショベルでの廃棄。

保守教授の、香港は英国の植民地として発展してきた、これからも中国に頼るべきだ、特殊な普通選挙を黙認すべきだ、という論文への眼鏡娘のメールで映画は終わる。「それは尊厳のある人生ではない」。

(評価:★5)

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