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[コメント] 花札渡世(1967/日)

東映らしからぬ個人主義のやくざ映画で伊藤大輔好み。座頭市や松竹京都のヌーヴェルヴァーグ時代劇と似たテイストがあり今でも新鮮。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ツイッターで流れてきた情報なので定かではないが、成沢監督は俳優の演技指導専一に取り組んだらしい。俳優がみな生き生きしているのは彼の演出の成果なのだろう。一方、撮影編集についてはスタッフに丸投げにした由。そして本作は撮影編集ももいい。

唇舐める馬淵晴子がいいし、がま口の金と寿司の醤油で二度使われる花札のカラクリがいい。花札勝負の最中に馬淵は二度、梅宮の後ろに腰を下ろす。二度目はどういう詐欺なのか、伴淳が寿司喰らう最中に客に推理させる時間を与える呼吸がいい。

四ツ谷谷町という地名が貧民窟として登場し、妾の沢村貞子が今日はハエ取りの日で50匹取ったら褒美が出ると叩きを使い続けている。遠藤辰雄小林千登勢のデキている父娘。沢村をイジるのは小林のお好みの話題。勲章を山ほどつけた軍人安部の遠藤は小林に懸想して遠藤に「お父っつぁんと呼んでみたいんだよ」と訴える件が客席にバカ受けしていた。

サマ師(イカサマ師)と呼ばれる伴が冒頭の逮捕から出所、伴と馬淵を恋人と見た安部が伴を拳銃で撃ちする(「パンクだろ」)。本当は父親なのだと、昔は憎んだけどひとつ穴の貉だったと、馬淵は梅宮に告白したとき、足に怪我して炬燵に寝転んだ伴淳の横顔はふたりに背を向けて客席を眺めて泣いている。このショットがとてもいい。伴と梅宮が語り合う屋台から銃撃戦の暗転もいい。

梅宮が寄宿する遠藤は出所した伴を雇うし、馬淵を見つけた刑事西村晃に金を渡して帰らせる馬淵一点狙い。その遠藤が馬淵取られたと知って刀持って廊下を延々と梅宮追いかける件が素晴らしい。受け身の梅宮を拠点に個性派俳優が大活躍している。遠藤と利害が骨絡みだった西村は遠藤が殺された直後に安部徹と協定をさっさと結ぶ(遠藤も町会議員進出を画策していた)。梅宮に斬られた片腕持って逃げようとする安部も凄い。この時点で安部が小林とデキているというオチがあった。

最後に「どうせ死に花咲かせるなら戦場」と呟く西村までやっつけた梅宮が官憲に囲まれるラストは、戦前の官憲批判にまで視点を広げているようで、これは少しく風呂敷の広げすぎだったかも知れない、と思わせられるのが残念。ツェッペリン号やオールトーキーが話題に上っている。マンドリンがむせび泣く等全般に派手な劇伴も素晴らしかった。

(評価:★4)

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