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[コメント] 恋に踊る(1940/米)

これは傑作。筋書も面白いし、クライマックスで、かなり今日的な性差別への異議申し立てが描かれている、というようなこともあるが、ショウビジネスを舞台にした出し物と、その画面造型が、まず凝っていて見事なのだ。撮影はラッセル・メティだ。
ゑぎ

 冒頭はクラブの踊り子たちを前進移動で捉えるカット。客席の富豪、ルイス・ヘイワードへ光があたる。踊り子の一人、ルシル・ボールが、舞台用の帽子のてっぺんで光を反射させている(つまり、気を引いている)のだ。踊り子の中にはモーリン・オハラもいる。オハラがリーダ格。本作は、これらヘイワードとボールとオハラに、ヘイワードの離婚調停中の妻、ヴァージニア・フィールドを加えた4人(男1人、女3人)の恋愛関係を主軸のプロットに描いた映画なのだ。

 4人の中でも、主人公と云えるのは矢張りオハラで、本当はモダン・バレエのダンサーになりたいと思っている、真面目で清純なリーダ。でも反面、セクシーさの欠けるキャラクターだ。対して、ボールは、蓮っ葉で男にだらしないが、逆にグラマラスでセクシー。一人、肌の露出を売り物にしたバーレスクで出世していく。という訳で、オハラとボールが対照的なキャラを演じているのだが、しかし、何と云っても映画として華やかなのは、ボールのシーンで、フラダンスの場面にしろ、バーレスクで人気を博す出し物にしても見事なものだ。

 クライマックスは、ボールの引き立て役を腹を括ってこなしていたオハラが、バーレスクの観客席に向かって男たちの差別的な視線を糾弾するシーン、ということになるのだろうが、実は、私は、真逆の展開、オハラがボール以上のもっとセクシーなダンスを披露するのではないかと期待していたのだ。我ながら罪深い。しかし、このシーンの後、オハラとボールが掴み合いの喧嘩になる、というのもテーマの複雑性を際立たせる。さらにこの後の裁判シーンで見せるオハラの心持ちとボールの最後の科白がなんとも懐深いのだ。そしてエピローグのとってつけたような抱擁の描写。いったい、アーズナーが描きたかったことがやれているのだろうか、と思うところもあるが、いやこの複雑な感興も得難いものだ。

#備忘で二人の脇役のことを記述したい。

・一人は、序盤しか出てこない、踊り子たちのマネージメントをしている老婦人のマリア・オースペンスカヤ。確かにユニセックスな雰囲気。

・もう一人は、凄い高層ビルのフロアで事務所を構えるモダンバレエの演出家、ラルフ・ベラミー。雨の中、ベラミーとオハラが舗道を軽やかに走るカットは特筆すべき良いシーンだ。

(評価:★4)

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