[コメント] 東京五輪音頭(1964/日)
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十朱幸代の父上田吉二郎は娘のオリンピック出場を批判する。理由として(死んだ肉親絡みでスポーツが大嫌いという泣かせを除けば)自分たちが日本人であることに必然性はなく税金ふんだくられるだけだから国籍を返上したいぐらいだ、と豪気なことを語る。彼の床の間にはトルストイの名言の額が掛けられている(外国人が日本人を描写するトンデモ映画のようだ)。
しかし特に熱心な主張として取り上げられず、三波春夫に簡単に論破される。三波は戦争で負けた日本がここ一番に息子や娘を送り出そうとしているんだから協力してくれと語る。五輪を先の大戦のリベンジとして位置付けている。後に日本会議(前進組織)役員になる彼らしい右寄り発言で、吉二郎は簡単に論破されるのであった。
終盤は三波(二役でこちらは本人)が自身の創作浪曲「俵屋玄蕃」を雪降る背景で延々語り、それは赤穂浪士ネタで東京五輪とまるで関係ないのが凄すぎる。そして東京五輪音頭を客席とともに歌い踊って賑々しく映画は終わる。何なのだろう。テイチクのやりたい放題という印象。
本筋では水泳選手十朱のオリンピック合宿と予選大会が大した熱意もなく描写されるが、後者はらしい競り合いなど全くなく十朱が圧勝してしまうのが面白い。本番も圧勝で金メダルよろしくね、みたいなニュアンスだろうか。
このように文句がいっぱい出るにもかかわらず、本作はブラジル移民を取り上げていることで価値があると思われる。本邦にはブラジル移民を語る映画がほとんどないので稀少価値があると思われた。山内賢と和田がブラジル行を志望していて、十朱の引き留めでドラマが若干ある。そしてブラジルで成功した岡村文子が五輪見物を兼ねて迎えに来るという展開。サンパウロに5千ヘクタールの農地があり千人も使用人がおり、飛行機で種を撒くのだと語る。まあ、その位しかないんだけど。なぜこれを本作で取り上げるのか。たぶん岡村は、日本人が後に続くべき国際人として描かれており、五輪をその契機と位置づけているのだろう。
東京タワーを初めて見てエッフェル塔の真似なんかしちゃってと皮肉ってもいる。あんまり三波の右寄り発言ばかりなので、彼不在の件で皮肉を足したように見えた。一家は駒沢競技場の「オリンピック記念塔」を背に一家は記念撮影をしており、私はこの奇怪なタワーのことを知らずにいて吃驚した。築地市場で青果物の仲卸を商いにしている登場人物たちが活写され、佃島の渡し船も記録されている。上記寿司屋の件ではポルトガル語ではなくブラジル語と云っている。
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