[コメント] すべてが変わった日(2020/米)
ブランチよ、あの子を返して!というマーガレットダイアン・レインの悲痛な叫びが、このタイトルに表れているのだろう。
息子を亡くし唯一のよりどころである孫のジミーが突然姿を消し、卑劣な環境にあることを知ったマーガレットとジョージケヴィン・コスナーが孫と嫁を奪還するという物語。
親子の絆、家庭内暴力、嫁と姑の関係、先住民、教育。
表面的ではあるが、多くの問題が隠されたこの物語は、主演二人の円熟の演技と共にジワジワと迫ってくる。二人の顔に刻まれたシワが、息子を亡くした夫婦の歴史となり、失ったもののリストに加えられることになるのだ。サイドミラーに映りこみ遠ざかってゆく影のように。
慈しみ、ともに暮らしてきた愛馬を安楽死させ、不慮の落馬で息子を亡くし、それらをみとったジョージを、最後はマーガレットが見送る。耳元でささやいたのは楽しい思い出だったのだろうか。広大なモンタナの風景と、見捨てられたようなノースダコタの山奥でのちいさなシーンの積み重ねが郷愁を誘う。
ブランチレスリー・マンヴィルのキャラクター造形には背景説明がやや不足していると感じ、唐突感は否めないが、女手一つで家族を支える苦しみがもう一つ感じられると一層幅がでたのではないか。一方、ビルジェフリー・ドノヴァンのいやらしさはよく表現できていた。
カメラは雄大な自然と1960年代のアメリカ中西部をよく捉えており、プロダクションデザインも美しい(車、キッチン、ダイアン・レインの衣装等)。
主演二人は一世を風靡した人気俳優。彼らと同年代で年を重ねてきた身としては、年齢と共に作品を選び役柄を作り渋みを増していることに感銘すら受ける。馬がよい脇役として扱われていた点も良かった。
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