[コメント] 人生のお荷物(1935/日)
こゝで「あらイヤ!」という声と共にアップの田中が一瞬映るのだ。大山は「うちのタカ子来ませんでしたか?」。この後3人の会話シーンとなり、画家の小林は田中の夫で、大山は義兄(姉−タカ子の夫)と分かる。
続いて田中の実家の場面。部屋の中をパンして立派な結納品の数々を見せ、母−吉川満子と、間近に結婚をひかえた若い水島光代を登場させる。水島が小さい姉さんと云うのが次女の田中のことで、居間には田中と姉・長女の坪内美子。モダンな田中と日本髪を結った坪内が対照的に描かれる。そこに、まだ小学生の男子・寛一−葉山正雄が帰って来る。三姉妹とはかなり歳の開いた弟だ。この後に、田中と小林、大山の3人のシーンもあり、前半は田中絹代が中心にいるプロット展開だ。これが中盤になって、友達と遊んでいる葉山−寛一のところに、女中のお浪−六郷清子が迎えに来、帰宅すると、父−斎藤達雄が既に帰っている、というシーンを挟んでからは、斎藤と吉川と葉山の3人の話になっていく。例えば、長女の坪内もその夫の大山も、序盤しか登場しないというのは、潔い構成だと思う。三女の水島も、結婚式の場面までだ。
そして、本作のハイライトとでも云うべき場面が、結婚式が終わって帰宅した斎藤と吉川の2人だけの会話(口論)シーンだろう。これが予想外に長い。それは突出して感じられる。しかし滅茶苦茶面白いと思う。斎藤が「どっこいしょ」と云いながら座るのをアクション繋ぎで2カットに割るなんて繋ぎもあるし、布団の中で寝ている葉山へのドリー寄りと、それを苦々しく見る斎藤へのドリー寄りというドリー二連打にも驚かされる。とにかく、吉川の動作含めて立ったり座ったりといった運動を実に肌理細かく見せるのだ。序盤から、タイトルを表すモノ(お荷物)は、うすうす気づかされるけれど、この場面で、かなりドギツク分からせる。かくして、吉川は葉山を連れて別居することになる。
さて、終盤のプロット展開にはもう触れないでおくが、収束に向けてのシーン構成と人物の出し入れ、関係変化の見せ方も絶妙だと思う。例えば、葉山が斎藤の隣で夕飯を食べる場面が唐突に繋がれ「こゝで食べて、お酒不味くなあい?」と葉山に云わせる部分。ラストシーンには冒頭の2人、田中と小林もちゃんといて、風邪をひくひかないの会話があるという落ち着きのいい構成。あ、新婚旅行から帰って来る日だったわ、という科白もあり、この後の家族の情景を目に浮かばせて終わるという実に卓越したエンディング。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・葉山が友達と遊ぶシーンで突貫小僧(青木富夫)がいる。最初に帰る子供。
・水島の結婚相手は佐分利信で軍人。一瞬だけの登場。新婚旅行は南紀白浜。式場の場面には武田春郎、水島亮太郎、坂本武もいる。
・斎藤が別居の報告に行く先は、新井淳と飯田蝶子の家。息子は阿部正三郎。
・カフェの女給で三宅邦子。もう一人は浪花友子か。慶応の応援歌を唄う男たち。このカフェで斎藤が偶然会う部下の一人は谷麗光。花売りの少年は爆弾小僧だ。
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