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[コメント] 五重塔(1944/日)

幸田露伴の原作は随分前に読んだのだが、文庫本で100頁無い短い小説だし、各プロットが強くイメージを喚起する構成だからか、けっこう、あゝこんな話だったなぁと思い出しながら見た。
ゑぎ

 本作も60分余りの尺に収められており、主要キャラの造型は、強弱メリハリがつけられているように思う。谷中感応寺の五重塔建立をめぐる、二人の大工の話だが、主人公の花柳章太郎は、かなりの偏執狂であり、先輩の柳永二郎は、短気な部分もあるが、全体に器量の大きさが強調されている。これも本編上映前に「撃ちてし止まむ」が入る時代の雰囲気(滅私の精神だとか)をとらえたものかも知れない。あるいは、お上人さまの部下の要人たちは、原作では、もっと悪役だったように記憶していたが、こゝは、少し抑えたのかも知れない。

 また、本作でも五所の演出は、ディゾルブ繋ぎを多用している。例えば、どうしても、五重塔の仕事を請けたい花柳の感情を強調するために、掛け軸の絵に描かれた五重塔から花柳の顔へのディゾルブ、さらに、そこから、五重塔実景がディゾルブする。あるいは、建設場面、普請場の場面はかなり端折られているが、大工たちの仕事の様子と、塔の外観の模型を活用したディゾルブ繋ぎで、時間の経過が表現されている。

 そして、本作クライマックスは、建立自体よりも、完成直後の大嵐のシーンであり、こゝは暴風雨の強さをよく造型している。五重塔が倒れはしないか、と心配して点検を催促に来る寺の坊主たちに、花柳は、お上人さまが何も云っていないのなら動く必要なし、と泰然としていたのだが、坊主が、お上人さまも心配していると、嘘をつき、不本意ながら寺へ向かう。こゝで、花柳の妻−森赫子が、ずぶ濡れになって見送るカットがある。私としては、こゝが全編で最も印象深いカットだと思った。前半から花柳を支える森の姿も強調され描かれており、本作の真の主人公は、柳と森と云うべきだろう。

(評価:★3)

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