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[コメント] 不沈艦撃沈(1944/日)

工場増産に係る典型的プロパガンダ映画で、余りにも見事なマキノ演出、終盤の狂騒的な群集劇は圧倒的で、技法は頂点を迎えている。才能の無駄使いとしか云いようがない。謹んで1点減点。表層批評ってのはこういうのも評価するのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







昭和16年秋。笑いさざめく娘たちを他の客が「こんな時代にいい気なもんだ」と詰る汽車に乗って病身の昭和精機の社長東野英治郎が東京から地方都市の兵器工場(従業員3000人)に到着して役員会。海軍少佐高田浩吉から魚雷X62の部品の10割増産の相談。今が工場の能力ギリギリなのは判っているが「海軍はそれだけのものがいるんです」とだけ云われて、作ってあげたいと思ったが如何。冷静に無理と主張する佐分利信に、安部徹は、人間は器械ではない、人間の能力はマイナスもあればプラスもある、私の責任でやりとげますと云い、工場長井上正夫は仕方ない、やろう。東野はお願いすると頭下げて倒れるいい加減な演出。こんな奴死んでしまえという含みではないだろうか。

役員は相談。就業時間を多くすれば不合格品が増える反比例の関係にある。夜業手当は増やそう、だが彼らは賃金よりも物がほしいと語り合っている。国民意識の高揚を訴えてはどうか、いくら演説やっても彼等の感情にしみこまねば彼等にはピンとこない。リアルなことを云っているものだ。佐分利はまず我々が姿勢を見せようと語る。

工員の斎藤達雄は夜業の連続をぼやき、給料幾ら貰っても使う暇ないと、班長の河村黎吉にリューマチだと騙して居酒屋、そこに河村が入ってくる。河村に痙攣が始まり、いまの酒はメチルではないか、帰って下剤呑もう、キミも酒など止めないと危ないと忠告。すると斉藤も気分が悪くなった気がするのだった。昭和16年からメチルがあったと学ぶ。店員の飯田蝶子はウチは人殺しの酒なんか売りませんよと怒鳴りまくっている。ここはいいコメディ。

高田幸吉は上司の軍令部栗山大佐小沢栄太郎に10割増受諾を報告。こんな偉い人が軍需部みたいなことするのかと思うが、秘密作戦の指揮なのだろう。小沢はガソリン貯蔵量激減のグラフみて、国民に公表もできないしと悩んでいる。中国との喧嘩にうちの海軍の機械はいらないだろうと工員の噂。工場勤めの青年は大金もって香水の匂いさせて田舎に帰省して、農夫の兄は河村に弟を不良にしたとねじ込み、大金もたせて悪かったが残業は増産のため、英米を脅すためには海軍兵器が必要と河村はもの凄い抗弁をして、兄は納得して帰るのだった。

6号号室の工作機械はアメリカの輸入品で古く、安倍は思うに任せない。佐分利は日本製に代えたらと提案して喧嘩。日本製は安物という認識であった。安部は思い余って叔父の小沢に相談(東京まで行くのだろうか)、小沢も技術者が良ければ使えるのだと日本製を勧める。そうこうしている間に機械は爆発。古いせいだとしか思えないがアメリカ製だからという嫌味が含まれている。他の室の機械もアメリカ製なのだろうに。頭に包帯した安部は、いつの間にか導入された日本製指してまあまあとか云っている。

壮士風な白髪の丸山定夫(中学の恩師)は小沢を訪問して、英米に手をこまねいている海軍を詰ってさっさと帰る。小沢の妻桑野通子に同情されて小沢は「海軍は何をしているか、か。何かしているだろうさ」とニヤリとほくそ笑み、悲愴なマーチとともに戦艦やゼロ戦がやたら映される。このほくそ笑みは実に厭らしく撮られており、彼の終盤の感動的なスピーチを相対化するものだ。作者はこの辺りに屈折を埋め込んだのかもしれないとは思わされる。

駅でスキー板持った娘たちを斉藤が揶揄っているとラジオから英米開戦の放送が入る。斉藤は興奮して大日本帝国万歳と駅の待合室で万歳唱和を先導し、山のような工員は遊びに行くのを止めて万歳しながら工場へ駆け戻るのだった。この演出がとても「感動的」。44年の観客に41年のあの感動を思い出せと示すのだろう。軍艦マーチ劇伴に増産の工場風景の活写。丸山は不在の佐分利の代わりに桑野に詫びるのだった。

工場増産の目標だった英プリンス・オブ・ウェルズ撃沈の方を聞いて喜ぶ小沢。10割増産出来。「12月8日が一切の障害を吹き飛ばしてしまった」と安部と佐分利は語り合う。最後は小沢の工場で日の丸背にやたら「感動的」な講演。「あなた方が敵艦にぶつかって行くのです、あなた方がプリンス・オブ・ウェルズを撃沈させたのです」。工員たちはすすり泣き、斉藤たちはやりますと拳を上げるのだった。一同が日の丸にお辞儀して終わり。

佐分利の妹の水戸光子と安部のロマンスがどうでもいいように挟まれる。本作への出演を丸山定夫は恥じて死に、小沢栄太郎は恥じて悪役を務め続け、斎藤達雄は恥じてドタバタ芸を続けただろう。冒頭「一億の誠で包め兵の家」の海軍省後援。

(評価:★1)

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