[コメント] 大東京誕生 大江戸の鍵(1958/日)
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徳川はすでに降伏を決めていたのだから薩長の攻撃は不要だったというのが本作の基調低音。徳川慶喜芥川比呂志は水戸学を学んできた、これ以上朝敵の汚名を着せられるのは耐え難いと冒頭から夜の雨の船の甲板で嘆き、朝廷から嫁いだ和宮山田五十鈴に面会断られ、公武合体の夢は消えたと嘆く。本作の芥川は嘆きっぱなしである。
「抗戦か和平か」で部下は対立。海軍奉行の勝海舟高田浩吉は和平派、彼の上司の陸軍奉行小栗上野介松本幸四郎は抗戦派でその対立が綴られる。小栗の理屈はこうだ、すでに大政奉還は決定している、幕府と朝廷で和平をするのであり、ここでドサクサ紛れに利権を得ようとする薩長は許せない、薩長の態度は関ケ原以来の遺恨だ。朝廷に弾を撃ったのは蛤御門の長州ではないか、鳥羽伏見で掲げられた錦旗は偽物の噂に激怒もしているし、薩長に闇討ちにもあっている。養子の又一森美樹は藩閥から分県制度への改革説いて徳川三百年の恩を忘れたかと怒る父と対立して勝の元へ走る。顔の効く英仏公使も小栗の意見を理解して借款契約。一方、朝敵撃つと語る西郷を天皇松本錦四郎は戒めているが、西郷は無視して東海道に兵を進め、小栗を斬れと命じる。
青が印象的な美術の屋形船で小栗と勝は談判するが決裂。そして江戸城最後の大評定。裃姿の大量の武士が廊下から庭にまで座るスタイル。対立構図が拡大再現され、必勝の策ありと作戦を縷々解説する小栗に「これ以上朝敵にはなりたくない」「敵は薩長なのです」慶喜は縋る小栗を振りほどき即刻罷免。抗戦派は悲観に暮れて数名が庭に飛び出し切腹するという衝撃場面がある。この、尊敬する者のなかに敵が紛れ込んでいてにっちもさっちもいかないという構図は、組織論としてとても興味深いものがある。
ここまでが風雲篇、ここからが開花篇。小栗は妻のアラタマが身籠ったとかいう細部を挟みつつ、勝に薩長は江戸に入れるなと指示、有名は西郷勝会談は写真だけで示され、慶喜は上野寛永寺に去り、赤毛白毛の鬘を先頭に薩長先遣隊は江戸で大暴れ、立ち退かんと頑張る老中河野秋武を叩き切り、我らは官軍でござるぞと乱暴狼藉、夜は宴席で♪宮さん宮さんと謡い踊る。
小栗の養女瑳峨三智子はゴヨウトウで両親を殺害された孤児で(前半赤フィルターで再現されていた)、格好よく忍び込んで宴席の庭で山本麟一(?)見つけて刺し殺し。『近松物語』同様の街頭晒しもの(彼女の来歴は徐々に明かされるので小栗の妾かと思っていた)。勝は彼女は被害者と西郷に処刑取りやめを求め、西郷は代わりに小栗の斬首を決める。西郷の「余り偉過ぎるても困るのが政治」と訳の判らない理屈に狂気が感じられてえすごい。小栗は主役とは思えぬほどあっさり殺されるのがドライ。
城壁の上に大砲構えた美術の五稜郭で榎本武揚山形勲は「勇戦一年、弾尽きた、これより最後の突撃」と怪我人だらけの数百名に命じて内戦は終わる。最後は天皇が上京、「奉迎東京遷都」の提灯行列の豪華美術、「日本中が天使様のもとで新しく生まれ変わったわ」と又一の阿呆な彼女冨士眞奈美が叫び、ウルトラCの大団円。本作はここまで積み上げた薩長の恨みを天皇制とともに雲散解消させる。無茶な収束だが、天皇制とはそういう機能が望まれた、という意味では判るところがある。
冒頭、樺太まで赤い地球儀が映されるのが印象的。小栗の部屋には日の丸が額に入れて飾られており、彼は錦の御旗でも官軍の旗でもない、日の丸が必要なのだと呟く。日の丸は対立を越えた和解のシンボルとして語られている。しかし日の丸提唱は薩摩の島津斉彬とするのが当時も今も主流のはずで、何か脱線しているように思われる。
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