[コメント] 市街(1931/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ビール流通の連続解説映像からして格好いい。工場買い取ろうとした強請りがギャング兼務のビール会社社員に葬られたことが、ビールの泡と水路の連鎖、同じ帽子の裏地で簡潔に示される。仕事終えたギャングのひとりガイ・キビーからクルマの運搬任された娘のシルヴィア・シドニーがウィンクでカットを跨ぎ、遊園地でのピストル射的場でゲイリー・クーパーの帽子に繋げられ、クーパーも殺されるだとうと不吉に予感させる(そうはならないが)。射的場の美術もクーパーの洒落た早打ちも愉しい。ふたりのデート、歪んだ鏡のギャグによる不安定の象徴化(「これがあんたの本当の姿よ」)、海岸で結婚するには職探しで喧嘩して仲直り。シドニーはビール工場を薦めたことを後に後悔することになる。
長生き論争で猫の置物対置させる件の後、父はギャングのブラッキースタンリー・フィールズが親分ポール・ルーカスと痴話喧嘩しているのを見て忠誠を示して路上で銃殺、事前に呼び出されていたシドニーは、よくあることなんだろう、片腕を三角巾(黒いのがとても印象的)で吊るして待機、父から拳銃捨てろと渡されるも警察に捕まって、一方父はブラッキーの情婦アギーウィン・ギブソン抱きこんで彼女とチェスしていたと、灰皿の葉巻の灰で軽く示す。細かい処はスキップして(刑務所の柵が閉まるだけ)シドニーは刑務所で紡績労働をして、保釈された友人を迎えに来た男がクルマの中で殺されているのを格子越しに見てしまうという唐突で印象的なアクションがあり(男はさっきまで元気だったのにどうやって死んだのか判らないのが凄い)、ビール会社は酷薄と知る。そんなこと、前から知っていただろうにというツッコミはこの際不要である。
クーパーは父に早打ちを見込まれてシドニーの保釈金稼ごうと誘われ、拳銃持たされて社長のビール会社勤務。冒頭と同じトラック配送して、路上に停まっている自家用車にライト消して突っ込ませて逃げるという乱暴をしたりして、この訳の判らなさも茫然とさせられる。ふたりは面会場で金網越しのキス。この件のシドニーが突然に愛らしい。金網越しのフルショットに情愛が溢れている。彼女は身なりの良いクーパーのビール会社勤めを知って愕然。
格子の窓に季節は巡りシドニーの出所、クーパーは高級車に上等の自宅。ポール・ルーカスはクーパーの親分になっていて、不信感しかないシドニーをパーティで独り占め、親分は父にお前の娘が気に入ったと伝え、父はヘラヘラ悦んでいる。クーパーは見張りを裏から襲って路上に落とさせた拳銃を足で次々と側溝に掻き落とし、臨戦態勢でクルマ飛ばす。シドニーは巨大な鏡(遊園地の回想)の前で親分に電話して拳銃持って会いに行き、拳銃は目ざとく取り上げられ、クーパーを首にしてくれと頼む。ウィン・ギブソンは親分に速攻で捨てられ、忍び込んで親分を射殺。彼女がドアから狙うショット、撃たれた親分は映さず電話相手の子飼いの部下ウィリアム・ボイドの反応だけで示すショットがいい。拳銃は中に投げ込まれ、狂言でシドニーが犯人にされる(彼女が親分に捨てられていたとすぐ後に知れる)。
ギャング同士の長談判が置時計の針回して顔連発で示されて、決着つけようとクーパーはギャング三人後部座席、助手席にシドニー乗せて夜の田舎道を早回しで走りまくり、機関車と競争して寸での処で踏切交差して(スクリーンプロセスではなく本当に撮っていてサイレント時代のようで驚愕がある)、山道ぐるぐる登り砂埃とヘッドライト、乱暴なカット割り、シドニーが振り向いて拳銃構えてギャングに銃捨てさせ(この車体を横から撮ったショットが格好いい)、山頂でギャング放り出してふたりは何処とも知れず去る。この素晴らしいクルマの件はほんの3分。
空に扇形に鳥が舞う最後まで唐突かつ素敵なショットで幕。このラスト、NYのシネフィルを追ったドキュメントで観たことがあった。これ観たフリークのお婆さんが涙流して感動していたのが思い出される。ここ観て泣くのは素晴らしい感性だと思う。
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