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[コメント] 花くれないに(1957/日)

高橋貞二の『坊ちゃん』、『青い山脈』だがずいぶんニュアンスが違い、正義感が非勢に晒されているのは世相の反映なんだろうか。VSの対決が抜群、笠智衆のらしくない男気の表出がアツくて素晴らしかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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町は「行き過ぎの自由教育」を糾さんとする有力者のPTA会長柳永二郎と腰巾着の教頭中村是好のもと旧弊が支配し、男女共学は行われず、男女合同運動場の予定地を競輪場にしようと企まれている。老町医者の笠智衆や娘の教師小山明子、熱血教師菅佐原英一に幾らかの生徒たちが反対しているが少数派。

「封建制を滅ぼそう」と笠が反対期成同盟会の演説会開いても人は集まらず、代議士呼んだ保守派「市政刷新」の幟のある集会は盛況、そこに学生たちが陽気にデモする件もあるが、普通はそのまま競輪場になるのだろう。柳の息子が反旗翻して(鉄道自殺未遂のショットがショボい)柳は折れる、というドラマの展開は、普通はあり得ないと云っているようなものだった。『坊ちゃん』、『青い山脈』にあったリベラルの勝利は57年に壁に突き当たっているように見える。なべ底不況の年。

宴席でドジョウ掬いする腰巾着の中村是好は最後、喧嘩両成敗で学閥の校長に斬られる哀れがあった。彼をフォローするのは好感。学歴のないものの政治暗躍より学閥が強いと示して世知辛く、宏池会対清和会みたいなものか。

笠は酒呑んで「ヤクザと博奕打ちがおらんのがこの町のいい処だったのに、愚連隊が出るようになった」と嘆いており、生徒らは愚連隊にいろいろ虐められている。この風紀悪化は競輪場との関連なんだろうか。清水や若松みたいなやくざ映画の舞台になる町は映画で有名になるが、そんなばかりではないという主張に学びがある。

高橋は赴任当初は中村に担がれて保守派に入りかけるが革新派に鞍替えする『坊ちゃん』の応用編の作劇。色んな女と絡む展開は女性の数が多過ぎて薄味なのが本作の難点だった。22歳の小山のカラー映画での別嬪振りがとても印象的。負けそうになるリベラルの役処をすでに演じているのは彼女の運命のように見える。

コロンビアローズの主題歌もラストのハイキングも『青い山脈』そのまま。「がんす」連発の盛岡ロケは貴重の由。雄大な岩手山の元、草原を羊が大量に歩いているが、あれは放牧なのだろう。盛況な「南部の馬市」は戦争の頃はもっと賑やかだったと語られている。

(評価:★4)

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