[コメント] 広場の孤独(1953/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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大金持ちの戦争利権屋ティルビッツフウベルト・M・ジルヴァヌスが来日、右翼にも労組にも金配って悪巧みするが、彼の一件は別に解決されずに、悪の潜伏を示したまま終わる。そして彼の金に吸い寄せられた高杉早苗は死に、田島義文は組合活動から脱線する。
新聞記者佐分利信と妻高杉早苗は上海で結婚して子供を戦争で亡くしている。家庭生活をする気が全くない高杉は遊び歩き、日本は厭だ南米に行きたいと金をほしがり、上海で旧知のティルヒッツに大金貰って、代わりに佐分利から右翼の情報得ようとして佐分利は激怒してドル札をストーブで燃やしてしまう。佐分利の部下の菅佐原英一が新聞社でスパイを捕まえる件もある。メーデーに右翼が乱入するという情報が流れるが描写されないのは、ここで暗躍が断ち切られたということなんだろうが、デモ描写がないのは淋しい。予算がなかったのだろう。一番のアクションは、佐分利もスパイと誤解した菅佐原が、佐分利を社の前でパンチ喰らわせて泥濘に沈める件。妻のしたことは私の責任と佐分利はわざわざ誤解生むこと云っている。高杉は最後は板橋のアジトで警官に撃たれて死亡。
田島義文(永井智雄かも。若い顔は区別できない)と津島恵子の兄妹は、団地(すでにあるのだった)の狭間に残った木造平屋住まいで、家は団地とは出鱈目に斜めに並んでいる画がリアルな美術。田島は新聞社の印刷工で組合の委員長。総選挙になり田島は出馬することになり、最初は津島が持ってきた屋台のラーメンを和気藹々と食べる件もあるのだが、ティルビッツが資金提供し、田島は落選して資金回収ばかりして、俺はもう労働者じゃない、仲間の処へ帰りたいと嘆いている。中ソに介入されて左翼冒険主義に走った日本共産党の含みだったかも知れないが、それなら直接描けばいいように思う。
津島は米軍関係のFEA(?)を身体検査予定が嫌で辞めてバラ園勤め、その主人がティルビッツ、という偶然の三段重ね。最後はあの人怪しいと辞めて国内線のスチュワーデスになっている。地を這う高杉と爽やかな津島という対照的な作劇は定跡通りの感。
田島が佐分利にあんたは反動だと云われ、いや俺は中立だと云い返す件がある。左派にシンパシーを覚える悩める中間管理職というのが原作の主題だったが、本作はその点も弱い。本作の結末は、ティルヒッツに掻き廻されて右も左も共に倒れたということなんだろう。
面白いのは周辺事情で、佐分利の勤める新聞社がスターリン重態から死去をどう受け止めたのかが綿々と綴られる。原作は朝鮮戦争前の話で、この件は映画オリジナルの由。「世界が米ソで持ちあっている」「スターリンが死んだら世界は明るくなる」。佐分利は「第三次世界大戦だろう」と語る。死去に際して国交がないから(50年代はなかったのだった)天皇は弔辞を送らないだろうと云われ、組合は意気消沈している。
東野英治郎や千田是也や信欣三ら新聞幹部は「こんな不気味な平和はいやだ」「いっそ戦争が始まればいいのに」「東京など消し飛ぶぞ」と語っている。終盤には町の電光掲示に時期首相云々とニュースが流れる。高杉は佐分利に真偽を確認して、株買って大暴落で損している。途中、引揚船興安丸の舞鶴到着という映像が挟まれる。スターリン死去でシベリアからの引揚が再開された。
米ジャーナリストのハントスチュアート・B・ソーンはタクシーの窓から工場みて朝鮮戦争の武器作っていると自嘲する菅佐原に、平和憲法はナンセンスだと切り捨てる。彼の誕生パーティなどに中国人の小沢栄太郎が参加して、中共から締め出されて7年も帰れない、勝っても負けても戦争には酷い目にあったと嘆いている。横浜は「東京租界」というフレーズも出てきている。菅佐原英一との三人が怪しいジープにつけられ、中共のスパイだ、という件がある(小沢がつけられているのだろう)が、それ以上の展開はなく放り出されている。菅佐原は上司殴って北九州へ左遷。スチュワーデスになった津島が見送る。降りた博多空港は米軍共用(!)、ハントは「朝鮮半島は手打ちになったからもう興味がない(朝鮮戦争の取材に来ていたらしい)。次は仏印だ。その次は日本 なんてことにならないように気をつけてな」と云って米軍機で去る。米軍機がバンバン飛ぶ飛行場を眺めて、ここは米ソ折衝の最前線だと菅佐原は津島にやる気を見せるのであった。
全体にクラブなど酒呑んでの進行が多過ぎると思うが、文屋の議論と併せ、政治映画とはそうならざるを得ないのかも知れない。菅佐原は乗客名簿みてティルビッツを見つけて追跡を始める。当時は記者なら見せてもらえたらしい。津島が郵便を受取りに行った飛行場に黒塗りのクルマから要人が降りて社会党バンザイと取り巻きが連呼する件があり、ここに片山哲が登場していただろうか。新東宝・俳優座作品。東京新聞や時事通信などが協力している。
スターリンの「死が伝わると株価までが大暴落、築地本願寺では追悼国民大会まで開催された。もちろん、その虚名にかくれていた巨大な「犯罪」の存在は、抑留問題などでうすうす感得かれていたとしても、それを本格的に認識するための知的装置は、当時の日本にはまだ存在しなかった」(「日本冷戦史」下斗米伸夫)
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