[コメント] アリバイ(1963/日)
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導入はとてもいい。ロケ満載で、武蔵野署とある新興住宅地、米軍拳銃の薬莢が転がる殺人犯行現場、一戸建ての向かいは畑だったり、逃走経路の山際に養鶏場があったり。立川の歓楽街「シネマ通り」がまた殺伐とした風情で、上空を低空飛行でやけに肥った米軍機が飛び、刑事のペア二谷英明と宮口精二が麻雀しているキャバレーだかの楽屋に踏み込むと、ブローカー小高雄二が米軍から拳銃入手して売り飛ばしてくれて元カレの葬儀代に充てたと、お姐さん安田知永子が空を米軍機がゴーと飛ぶ荒地で告白する。警察は小高追ってヤクザ事務所とかバーに潜入して続々逮捕。この辺りまではとても愉しい。
小高捕まえて拘留、まずこれがやたら長いのに違和感がある。彼が犯人かあるいは拳銃渡した相手が犯人の可能性が高いのだが、前者はアリバイがあると判り、後者も六本木で知らない奴に売ったとか云う供述を最初にしているのに、宮口の「直観」によりその後もダラダラ尋問を続けている。不当拘留にしか見えずそんなんでいいのだろうか。さらに件のアリバイ、薬局で呑んで捨てた薬瓶の指紋が一致したのだが、現場検証してみたらボロが出て薬瓶も持ち込みと判るという実に簡単な謎解きで弱ってしまう。共犯の渡辺美佐子が浮上するのが出てきた写真というのも偶然が過ぎる。
犯行は香港人の呉羽華僑社長陶隆の手形詐欺に辿り着く。下元勉が社長の電気会社に最初は法定利息で融資してお得意さんになり、ある日突然大滝秀治を紹介、信用して渡した手形は返却されず、大滝は刑事に喋った下っ端をリンチして手形の借用書にサインさせたうえで海の底。この詐欺っぷりに学びがあるのだが、しかし遺体が浚渫船に掬われたというのも偶然が過ぎる。最後はこの件、売れ行きに影響するので告白を躊躇していた下元の決断で解決するという、善人社長と悪人華僑の対立構図で描いている。こういうのも当時の定番ではあるが、熊井脚本にしては穿った処がない。
捜査中に奥さん亡くしてこれが最後の仕事という宮口の泣かせに至っては付け足しでしかなく、全部止めたほうが良かった。しかし撮影は最後まで好調。下っ端が小高の妹人質に取る藪の中の一軒屋へ刑事が踏みこむ件(宮口が押し売りに化けてゴム紐買ってくれよと座り込む件が本作のベストショット)、続く藪のなかでの決闘がとてもいい。モノワイドが効いている。
本作は『天国と地獄』とかぶる描写が目につく。警視庁の取り調べ風景がそうだし、人質取った隠れ家、対位法的にラジオから流れるハワイアンもそうだ。封切はあちらが3月、こちらが8月だから影響受けているだろう。冒頭、警視庁協力の字幕があり、窓から皇居が見え、捜査網の電光掲示板も映る。会議室も借りているのだろう。これは貴重な記録と思われる。
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