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[コメント] とんび(2021/日)

原作未読、過去のドラマ化作品も未見で見る。まずは、撮影のとても美しい映画だということを明記しておきたい。瀬々敬久斉藤幸一(撮影)コンビ作品のヌケの良さは、『8年越しの花嫁』でも感じたが、半端ないレベルだと思う。
ゑぎ

 この二作は、瀬戸内地方を主な舞台とする、という共通項もある。本作は、昭和63年の東京から始まるが、すぐに26年時間が遡って、昭和37年の広島が舞台となる。そして阿部寛の運送業の仕事や、その妻−麻生久美子との生活、二人の子供アキラ(長じて北村匠海が演じる、あきらかに小林旭の名前からとったアキラ)の出産と成長などが描かれるのだが、昭和30年代の港町(商店街)のオープンセットや、アパート内の茶系の色調が見事に時代を表現しているのだ。さらに、浜辺のシーンの美しい光には陶然となる。ラストも浜辺のカットだが、こちらも抜群に綺麗な撮影だ。

 また、本作は中盤までは、かなりの涙腺刺激映画でもある。ネタバレでもないと思うので書いてしまうが、麻生はすぐに事故で亡くなってしまう。その葬儀シーンにおける小さなアキラの振る舞いと阿部の対応が、いかにもな、お涙頂戴場面だが、それでも嗚咽をこらえるのは難しい。あるいは、料理屋のおかみさん−薬師丸ひろ子とその娘−木竜麻生とのシーンがタマラン良い場面だと思った。中盤以降は(アキラが北村になってからは)、感動場面は減退するけれど、終盤の、薬師丸の店で安田顕が打つ、ひと芝居のシーンは、オチは分かっていても、大いに感動する。まるで新喜劇のようだと思いながら見た(私は新喜劇ファンです)。

 あと、人物が手を合わせるシーン(墓参や葬儀や合格祈願)、手を繋いだり、人の体に手を当てるシーン(病院で紅葉饅頭を渡す場面や、妊娠した女性のお腹に手を当てたり)といった、手のぬくもりを感じさせる所作の演出の反復も、感動の要因として指摘できるだろう。中でも、深夜に麿赤兒(安田の父で海雲という坊主)が、阿部と安田と小さなアキラを伴って、雪降る海岸へ行き、アキラの背中に手を当てる場面は、突出したシーンだと思う。また、このシーンは、夜の屋外としては、明る過ぎる照明かとも思ったが、ぎりぎりの線で、とても美しい。

 ちょっと気になったのは、母親(麻生)の死の原因をアキラに隠し通すことの納得性が弱いことで、これは、原作の問題だろう。映画の表現としては、むしろ終盤の神輿の場面でも、阿部を助ける北村に繋いで、麻生の事故場面のスローモーションがフラッシュバックで挿入されるといった、ベタすぎる演出だ。このあたりは、私の感覚だと、涙腺刺激の勘どころを間違っていると思える部分だ。

(評価:★3)

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