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[コメント] 息子の面影(2020/メキシコ=スペイン)

ファーストカットは主人公・マグダレーナのフラッシュバック。画面奥から少年が歩いて来るロングショットのフォーカスインだ。屋内からの窓越しショットでもある。少年は野球帽をかぶっている。
ゑぎ

 「息子は、友人のリゴと、アリゾナに稼ぎに行くと云って出て行った」とのモノローグが入る。本作は、マグダレーナが行方不明になった息子を捜索するロードムービー。彼女の行動を追う場面に、別の2人のエピソードがクロスカッティングされ、いっとき交錯し、離別(退場)する。

 一人目は、眼球の手術シーンで登場する女性医師。5年間失踪していた息子と、2週間前の遺体が同一人物かを確認に来る、死体安置所の施設でマグダレーナと出会う。もう一人は、アメリカから強制送還される青年ミゲル。彼も野球帽をかぶっており、登場時点では、マグダレーナの息子かと見紛わせる。彼は、一人目の女性医師に比べると、重要な役割りを担う。母の待つ家へ向かう途中の道(草原)でマグダレーナに出会い、心優しいミゲルは、マグダレーナを家に招待する。しかし、母が待っていると思っていた家には、誰もいず、死んだ家畜にはハエがたかっている。こゝから、ミゲルとマグダレーナは、母と子が入れ替わったような、疑似親子の関係になると、思わせるのだ。

 さて、本作はとても美しい撮影の映画だし、マグダレーナが舟に乗せてもらうシーンでの大俯瞰ショットなど、撮影と編集で驚かされる部分が多々ある。上で一番最初に書いたように、本作はフォーカスの演出から始まるが、全編に亘って、被写界深度とフォーカスを自覚的に演出した画面が何度も出現する点は特筆すべきだろう。例えば、マグダレーナの旅立ちの夜、リゴの父親のピックアップトラックで町まで送ってもらうシーン。駐車した側の店のショーウィンドウの光(青や赤の光)が、被写界深度を浅く撮った人物の後景に、丸くボケて映っている。同じように、ミゲルが国境管理施設の中の通路を歩き、回転扉を通ってメキシコへ入国する夜の場面で、大きな駐車場なのか、ミゲルの後景に無数のテールランプの光だろう、オレンジ色の光がボケて見えるのだ。これらは(冒頭カットを含めて)、終盤の衝撃的なカットに呼応する。画面奥のオレンジ色(炎)の中から、悪魔が手前に向かってくるフォーカスの外れたカット。これにはまったく驚愕させられるではないか。考え抜かれたカットの反復だ。

(評価:★4)

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