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[コメント] 梅切らぬバカ(2021/日)

梅の木の接写ショット 。ティルトダウンするカメラ。これはラストではティルトアップで繰り返される(ラストカットは、俯瞰気味の引いたショットだが)。道に張り出した、この木の枝が切られるかどうかは、観客の関心事になる。
ゑぎ

 切る、ということで云えば、加賀まりこが庭で息子−塚地武雅の髪を切るシーンが、彼らの登場シーンだ。他にも、爪を切ってやるシーンもあるし、電気カミソリで髭を剃ってやる場面も、加賀が塚地の何かを切る、ということの反復と云えるかもしれない。

 あるいは、日常のルーティーンの描き方が本作をとても面白くしているだろう。時刻通りに決まった行動をしないと気が済まないこと。きちんと挨拶をすること。食事の場面の繰り返し。それらに加えて、ゴミ出しの場面が執拗に反復される。「ゴミ」あるいは「廃品」は、本作の重要な道具立てなのだ。要所要所で出てくる、塚地の一言決めゼリフが実に面白いが、中でも草太少年に「燃えねえヤツ」、扇風機に「廃品」と云う部分が特に印象に残る。

 実は、見る前はテーマ性主導の映画なんだろうな、と予想していて、あまり期待していなかった。ただ、ネット上の本作に対するコメントの中に、乗馬クラブが登場する、というのを読み、ちょっとそこは見てみたいと思ったのだ。この部分については、サラブレッド(多分)の馬房を通ってポニーの厩舎へ行き。連れ出して、馬場で曳き馬をする、というところまではいいが、町内会長が倒れてるシーンは、唐突だし、作り過ぎだと思った。また、グループホーム反対の路上でのデモシーンは、これも作劇臭い。ちなみに、グループホームの世話人役は北山雅康。彼がずっと映画に出続けているのは嬉しい。「とらや」の三平ちゃん。

 あと、草太少年が泣き出す朝食シーンの、父(渡辺いっけい)と母(森口瑤子)の正面バストショット切り返しには違和感を持った。こゝのショット自体は、むしろ良いショットだと思ったが、全編の中で、こんなかっちりした切り返しは、こゝだけなので、悪目立ちして感じたのだ。終盤の渡辺いっけいの変貌も唐突だと思う。

 というワケで、気になった点もあるのだが、全編通じて、落ち着いた固定ショットの構図・照明の選択は、素直で好感の持てるものだし、何よりも、加賀と塚地の演技演出の誠実さが気持ちいい。現実はもっとずっと厳しい場面が多々あるのだろうとも思うが、本作は見ている間中、ずっと笑顔になれる、良い映画だ。

(評価:★3)

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