[コメント] 都会の横顔(1953/日)
タイトルにある「都会」とは東京銀座のことで、全編が銀座を舞台とする。しかも、新橋芸者の広瀬嘉子が人力車に乗るショットだけは、スクリーンプロセスだが、あとは全部ロケ撮影のように見える。一番驚いたのは、沢山の歩行者や買い物客が、画面に写り込むが、ほゞ、カメラ目線が無いことで、全部エキストラということはないだろうから、これは驚異的なことだと思う。
主人公はサンドイッチマンの池部良と靴磨きの有馬稲子と云っていいと思うが、冒頭から迷子の幼女−ミチコちゃんに多くの大人が振り回される、というお話だ。序盤は、池部がミチコを連れて歩いてお母さん−木暮実千代を捜す場面と、木暮が知り合いの沢村貞子と一緒にミチコを捜す場面。この二つの場面を上手くニアミスさせながらクロスカッティングで繋ぐのだ。歩道の後退移動を繋ぐリズムには、もう道を歩く人の演出家、清水宏の独壇場、といった感じの愉しさがある。また、池部の歩き方とそれを真似するミチコのショットが実にいい。
中盤以降、ミチコは池部を離れて、丹下キヨ子、森繁久彌、広瀬嘉子と順番に行動を共にすることになるのだが、そのため、池部と有馬がミチコを捜す、という展開になる。その際、池部は、二つの百貨店に入る(三越と松屋か)。一ヶ所目は一人で、二カ所目は有馬と。いずれも、店舗内での池部のロングショットが驚きのあるショットだ。あるいは、松屋内で手前に池部、奥の遠いところに有馬を置いて、池部が手を振るショットなんて、タチのような凄いショットなのだ。また、松屋の屋上展望台への階段踊り場の二人のシーンは、後景に四丁目の時計台や森永の看板が見える良いシーンになっている。
そして、銀座のいくつかの店舗のシャッターが降りるショットで夜になることを示す時間の見せ方も情感たっぷりだが、ただし、この後、終盤の性急さは、とても残念な出来で、まず、唐突にミチコをおんぶする池部のショットが来て、広瀬から渡されたと科白で説明。こゝは、広瀬から引き継ぐ場面がカットされたとしか思えない。さらに築地署の場面の木暮の扱いと、長い芝居はどうしたことだろう。この場面をなんとかしていたら傑作だったのに、と思わせる、かなり残念なエンディングなのだ。冒頭と対になる、夜の都電軌道のショットは清水宏らしいけれど。
#備忘でその他の配役等を記述。
・ミチコ役の女の子は『続十代の性典』では若尾文子の妹を演じた子。
・歩道の易者は伴淳三郎。講釈の途中で、落ちている煙草の吸い殻を拾う。毎日銀座をぶらぶらしているという男たちには小泉博や村上冬樹がいる。日によって一緒に歩く男を変えているという山手マダムは清川玉枝。
・電気屋の店員でコンロ?の説明をするのは恩田清二郎だろう。お汁粉屋での森繁の相手は丹下だが、日劇で一緒にいるのは立花満枝。
・「よし田のコロッケ蕎麦をおごってあげる」と有馬が靴磨きの少年に云う。「よし田」は、現在、銀座6丁目にある。
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