[コメント] 暴行(1950/米)
例えば、冒頭は、街の道路の俯瞰。女性が誰かから逃げいているショットでタイトルインする。これは、フラッシュフォワードだったのだと後で分かる。クレジット開けが、屋台のコーヒーショップのシーンで、カウンターをコップが滑るショット、というのがスマートな出だしじゃないか。この屋台でケーキを買ったヒロイン−マーラ・パワーズが、恋人のロバート・クラークと公園で食事をするシーン含めて、良いオープニングなのだ。そして、残業したマーラ・パワーズが尾行者に気づき、街を逃げるシーンは、冒頭に繋がるのだが、彼女が佇んた背景の壁に大きな道化師のポスターがある、というショットもクラクラするようなセンスだ。このあと、ゴミ箱を蹴飛ばしたり、トラックのクラクションを鳴らしてしまうという演出は、ちょっと動転し過ぎかと思うが、男に襲われるシーンは、俯瞰で隣家の窓を閉める老人のショットだけで処理する、というこの演出もニクいのだ。
その他、警察署での面通し場面や、職場の同僚たちのスタンプ音や指で机を叩くタップ音を使ったPTSDの表現も手堅い見せ方だし、LA行きのバスが走るのを数ショット繋げるだけのシーンも非常に安定した画面なのだ。さらに、マーラ・パワーズが、牧師−トッド・アンドリュースに助けられ、農場の夫婦の元に預けられてからも、見晴らしのいい丘のシーンなど良い画面を挿むが、何と云っても、収穫祭のダンスシーンの移動撮影には驚かされた。『荒野の決闘』のダンスシーン(ワイアット・アープとクレメンタインが二人踊るシーン)のような、四角い舞台でダンスする男女。カメラはその真ん中を割ってドリーし、パワーズに寄って行く。このカメラワーク、とてもこだわった、現場に負荷をかける演出だろう。
そして、ラストシーンもいい。バス停の二人。バスが来て二人をふさぎ、走り去った後、はたして誰が残っているのか、二人残って抱擁しているのではないか、とワクワクさせる演出だ。この演出も実に頭がいい。
#パワーズの職場の同僚でスタンプを押す男はヴィック・ぺリンだ。
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