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[コメント] 時代革命(2021/香港)

乱世備忘 僕らの雨傘運動』もそうだったが香港の民主化運動の主体はあくまでも個人だ。今できることを自主的に実行する。その意志は勢いを増し類を呼び塊となって膨れ上がる。権力装置としての警察は秘めた暴力性を徐々に開放し“個人の塊”の勢いを削いでいく。
ぽんしゅう

そんな“個人の塊”の強かさと脆弱さを象徴する印象的なドローンショットが二つ出てくる。太平山だろうか、山頂に結集した抗議者の大群が放つ光によって香港市街の夜景のなかに、燃え盛る炎に包まれたように山並みが浮かび上がる壮観は“個の塊”の威勢を象徴して力強く美しい。一方、警察隊の組織的な攻撃に合いデモ隊が“個人”に解体され、まさに蜘蛛の子を散らすようにビルの谷間を四方八方へ逃げるさまを、真俯瞰で移動しながら捉えたショットは彼らの脆弱さを露わにして暗示的だ。

個人に端を発した勢いだのみの行き当たりばったりの運動は、当然のように警察の統率力に歯が立たず彼らの思いは遂げられない。だが本作をまとめたキウィ・チョウ監督は、一人ひとりの「この思い」は「あの時の傷」となって時の流れを超えて後世へと引き継がれていのだと暗示して映画を閉じる。

思えばキウィ・チョウはオムニバス作品『十年』(2015)のなかの自作『焼身自殺者』でも自殺を遂げた独立運動家の青年に託し、香港と中国とイギリスの歴史に根ざした深い傷と怨念を通して過去、現在、未来の連続性を力にせよ、と訴えていた。

(評価:★4)

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