コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 戦争と女の顔(2019/露)

本編溶明前、黒地に白い文字のクレジットが出る時点で、断続的に喉が小さく鳴る音と、キーンという耳鳴りのような音が聞こえる。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ファーストカットで、この耳鳴りのような音は、主人公イーヤの発作を表す効果音だと分かる。立ったまゝ硬直するイーヤ。戦争で爆撃を受けた後遺症という。イーヤは看護婦。めっちゃ背が高い。台に乗っているのかと思った。本作の原題は「のっぽ」だ。

 イーヤは、パーシュカという子供(幼児)と二人で暮らしているのだが、遊んでいる際に発作が出て、パーシュカの上に乗ったまゝ硬直してしまう。パーシュカの小さな手が動かなくなるのを冷徹に見せる。こゝに戦場からイーヤの親友マーシャが帰還し、プロットが駆動する。マーシャの登場は、イーヤの部屋のドアの前、足のショットから。彼女も特別な登場シーンが与えられている。彼女は、パーシュカの実母だったのだ。イーヤを責めないマーシャ。上で主人公はイーヤと書いたが、マーシャとのダブルヒロイン、と云った方がいいだろう。二人とも強烈な個性だ。

 さて、全体に屋内の照明撮影が美しく、全く見飽きなかった。部屋の木造の色調、壁紙などの装飾と衣装の緑や赤。特に緑色のカーディガンやドレスの色彩が目に焼き付く。美しいと同時に、私にはちょっと気持ち悪い、不穏な感覚も持つ色遣いだと思った。マーシャが緑色のドレスを着て、狂ったように回転する場面が象徴的だ。

 また、本作は、人物二人の会話シーンでも、ほとんど切り返さない、手持ちの長回し演出が多い映画だが、ただし、終盤、マーシャが恋人(?)のサーシャの家(大邸宅)を訪れた場面における、食卓での会話シーンでは、こゝだけ、かっちりとしたバストショットの、王道のような切り返しを見せるのだ。作り手は、はっきりとこのシーンが特別に重要な場面であることを宣言しているのだと思う。マーシャは戦時中のことを聞かれ、意味深な口調で支援部隊だったと云う。何人もの男と寝た、何度も中絶して不妊になったと。私は、それは、イーヤもそうだったのではないのかと思ったが、どこまでが本当か分からないけれど、マーシャのこの天邪鬼でふてぶてしい造型が、奥深く、メッチャ面白いと思った。

 場面は前後するが、中盤、マーシャがイーヤに、パーシュカを殺した代わりに子供を産んでくれと頼んだ後、ベッドの左からマーシャ、イーヤ、病院長、3人が並んだベッドシーンがあるが、こゝで女性2人が泣くのだ。こゝで泣かせるのはどうかと思いながら見たのだが、二人は戦争中を思い出したということなのだろう(正解かどうか分からないが)。そう考えると、このシーンも感慨深い。

#エンドロール中も、キーンという音が鳴る。鳴り続けている。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。