[コメント] ミセス・ハリス、パリへ行く(2022/英)
まずは画面全般について書くと、見る前から予想はしていたが、本作も抜群に美しい色遣いの映画だ。題材から云って、衣装の美しさは当然かも知れないが、しかし溜め息が出るレベル。ずっとウットリしながら見る。本作中、マンヴィルのバストショットでのドリー・ズーム(めまいショット)が2回あるが、いずれも彼女がドレスを見て最大級に感激する心持ちを表出する演出であり、観客も完全に彼女の気持ちを納得する部分だろう。あるいは、ロンドンの橋の欄干に佇むシーン(3回ぐらいある)や、パリの露店の花屋のシーン、セーヌ河岸の薄紫の光の扱いなども極めて美しい。当時のパリは、労働者がストライキ中で、街中ゴミだらけ、という画との対比もいい。
次にプロット展開だが、本作はマンヴィルが出ずっぱりの女優映画ということができる。彼女のいろいろな失敗や難題も描かれるが、幸運なだけでなく、周りの優しい人たちの助けもあり、トントン拍子に話が進む感覚がとても心地良いのだ。主要人物では、悪役と云っていいのは、イザベル・ユペールだけだろう(困った人は他にもいるが)。特にディオールの場面では、ユペール以外は皆とても優しい。それも、納得できるプロットになっているのだ。しかし、ディオールの顔と云われるモデルのナターシャ−アルバ・バチスタの可愛らしさには参った。この人、絶対売れますね。あとショーの司会も務める副支配人のような、ロクサーヌ・デュラン(『エール!』では主人公の友人役)も目立つ役で嬉しかった。
ただし、ランベール・ウィルソン伯爵とのロマンス、及びマンヴィルとユペールとの対決にいたる描き方は、少々作劇臭いと思った。ま、このあたりは映画らしいファンタジーとして受け取るべきだろう。また、マンヴィルのキャラ造型については、ブランド側の人物を演じた『ファントム・スレッド』(主人公ダニエル・デイ=ルイスの姉役で、本作で云うとユペールのような役)に比べると、どうしても普通のオバサンっぽい造型にする必要があり、カッコ良さでは劣っている。云い方を換えると、彼女の変身をもっとカッコ良く見せて欲しかったと思う。これは無い物ねだりでは無いと思う。
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