[コメント] 迎春花(1942/日=中国)
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近衛敏明は建築会社の奉天支店に転任。部下が南進するには北を固めねばならないと満州を語るプロパガンダがあるが、目立つ広告はここぐらい。あとは日満円満の図が延々描かれる。叔父の支店長藤野秀夫に満人の生活知れと云われて下宿探しに賑やかな町中うろつき、豚の頭の並んだ露店や自転車タクシーなど映され、社員の白麗李香蘭の案内でやたら歓迎する一家に決めるが。彼等の生活は特に語られない。料理屋でふたりが豚料理食べてチップ払うのが発見で、近衛と木暮が語り合う寺院に風情があり、近衛の中国語の個人授業で、あなたご飯食べましたかが挨拶のフレーズと教えられている(韓国と同じなのだ)。給料決めるにあたって満州の物価は内地の二倍と語られ、生計にいくらかかるか計算する件は貴重かも知れない。中国人の部下が電車にも乗らず歩く、風呂はときどき入ると倹約生活を語っている。
満州描写が面白いのはこんな処。「"満洲"の誕生から終焉までを綴った第一級の歴史的映像資料!」という広告をネットでみかけたがそんなものでは全然ない。全般に上流階級噺で、李香蘭の父もブルジョアで囲碁ばかりしていると語られ、藤野と日本の美も満州の美もない東洋の美だなどと談笑したり、近衛が中国の子供に剣道教えたり。親日派だけを相手にしているのだろう。
デブの近衛の社長の息子らしいゾンザイな造形は全てを傲慢にバカにしているかのようで、スケートでズッコケるとか鳩ポッポ唄うとか、長瀬のギャグがまた詰まらない。こんな奴を李香蘭と藤野の娘木暮が取り合いする図の動機は、彼が金持ちという以外に見当たらない。本筋は三人の実に平凡なラブロマンスで、冒頭から立派な屋外スケートリンクが映され、アイスホッケーに木暮が出るか李香蘭が出るかでもめる類。
近衛の出張旅行に通訳で李香蘭と木暮が同行してハルピン、近衛は営業。風景として東方教会からのロシア人の道路を埋め尽くす大勢の行列が熱心に撮られているのが本作最大の見処で、これほどのロシア人がいたのだと驚きがある。映画は別にこれを語る訳ではなく、近衛が意味もなく橇タクシーに乗っている処からも、珍しいからついでに撮った具合。木暮は東京へ行くと列車に乗るが、映画は冒頭から彼女の東京支店行きが語られているので、何で李香蘭が引き留めているのかよく判らず、李香蘭も唐突に北京に行くと近衛に別れを告げてロマンスは崩壊。日満共同も崩壊したかのようだが、そんなイロニーが込められたのかどうか不明。ラストは近衛が中国の子供に剣道教えているがヤケッパチになっているように見える。
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