[コメント] 川っぺりムコリッタ(2022/日)
食べ物はいろいろ出て来るが、炊き立ての白ご飯と塩辛、風呂上りのミルク、あとキュウリとトマトは別格の描写だ。動物だと、犬、ヤギ、金魚、イカ、ウジ、ナメクジ、クモ、それと、赤色系の色遣いのアクセントが目立つ。トマト、赤電話、金魚、縄跳び、ヤギの紐、夕陽などなど。
次に、画面造型でまず書きたいのは、この映画、かなり手練れのシネスコ使いの映画だということだ。こんなにシネスコを意識させる画面がいっぱいある日本映画は、久しぶりだと感じた。例をあげると、多くのシーンの舞台となるハイツ「ムコリッタ」は平屋の長屋で、引いた画が画面いっぱいに、ぴったり収まるのだ。他にも、川の土手下の廃棄物(ガラクタ)が固めて置かれている場所が面白い事件発生の場所になるが、こゝもシネスコにぴったり。あるいは、終盤の土手上の葬送シーン。行進する人物たちが、横長の画面に気持ちよくとらえられる。また、エンドロールの川岸からのクレーン撮影(ドローン?)もそうだ。
アスペクト比とは別で、瞠目した場面、ディレクションなどについても記しておこう。まずは、吉岡秀隆の部屋で、すき焼きを皆で食べるシーンの導入部がとてもいい。部屋側に置いたカメラから窓外に向けたショットで、部屋内に露出を合わせているので、部屋外は露光オーバーになっている。この露光の差を使って、部屋の中で座っている吉岡やムロツヨシに対比させて、屋外の松山ケンイチの運動を強調した演出だ。さらに、大家さんの満島ひかりが唐突に顔を出すのもいい。満島ひかりに関して云えば、土手上の道で必死に自転車をこぐ満島を脚からティルトで見せるショットも艶っぽいし、何よりも、部屋に横臥した彼女が、亡き夫の遺骨を齧ったり、唇に当てたり、さらに、胸から脚の間を滑らせたりするシーンの俯瞰ショットが艶めかしい。ちょっと悪目立ちするシーンでもあるので観客によって好悪が分かれるかも知れないが、私はいいと思った。
例えば松山と父親の相似だとか、薬師丸ひろ子と吉岡が同じ科白を吐くだとか作劇としては、ワザとらしい部分もあると思うが、いやそれにしても、この映画、少なくも私が2022年に見た日本映画の中では、画面造型という意味においては突出していると思う。傑作です。
#もしかしたら、調べ切れていないかも知れず、間違っている可能性もあるが、荻上直子がシネスコサイズを使ったのは初めてではないだろうか。
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