[コメント] ヴィクとフロ 熊に会う(2013/カナダ)
この演出家が非凡な才能、すなわちいかなる状況でもカメラポジションの最適解を導き出せる映画脳の所有者であることは、それこそファーストシーンの時点から明々白々である。懇切丁寧でない飛躍気味の語りが忍び寄る狂気の予感を漂わせ、一行たりともぞんざいに書かれていない台詞も緊張の糸を引き絞る。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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あるいは以上に加えて、禍々しく撮られた「森」の映画であることなどからも、ここにVシネ期〜『カリスマ』の黒沢清の影を見て取るのはとりわけ日本の映画ファンとしてごく自然の反応だろう。仮にこの物語に「惨劇」が起こらなかったとしても映画はじゅうぶん成立しただろうと思わせるほど「前科持ち初老レズビアンの生活観察記」の側面も充実しており、「電動カート」など面白細部の導入にも手抜かりがない。パーカッションの劇伴音楽や、黒人の大男が唐突に奏で始めるギター(演じたレイモン・セスペデスは本業がミュージシャンらしい)といった聴覚面の演出で映画の時間を変質させる技も有効だ。画面造型の才に任せた身勝手な一点突破映画ではなく、ドゥニ・コテの高水準の総合的演出力が勝利を収めた作だと云えるだろう。
役者も粒揃いだが、中でも気さくな小母さんから冷酷な復讐者に豹変するマリー・ブラッサールの恐ろしさには身の毛もよだつ。顔面面積の二分の一を額が占める異貌のオリヴィエ・オーバンもむやみに不気味で、彼などはデヴィッド・リンチ世界の住人のようでもある。
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