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[コメント] 聖衣(1953/米)

主題そのものは嫌いじゃないし、楽しめた作品ではあるのだが、やはりその乗り切れなさが高得点を入れるのをためらわせる。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 1953年。この年はハリウッド映画は最も盛んな活動時期に当たる。アカデミー作品賞を得た『地上より永遠に』があり、西部劇の傑作『シェーン』があり、これまた刑務所ものの傑作『第十七捕虜収容所』があり、そして『ローマの休日』が投入されていた。アニメでもディズニーの長編劇場作品『ピーターパン』が出るなど、映画史に残る傑作が次々に投入された年だった(日本でも邦画を代表する一本、『東京物語』が投入されているし、この年と翌年1954年を合わせれば海外で評価される邦画が見事に出揃う)。

 これにはいくつか理由があるのだが、その最も大きな要因は、アメリカでのテレビの普及率が急に上がった事が挙げられるだろう。映画の客が取られるのではないかという恐れから、こぞって映画界が大作を作っていった。その結果としてこの年の数々の名作製作につながったのだろう。その中でも最も集客が大きかったのは実は本作で、並み居る強豪映画を抑え、見事全米興行成績トップを飾った。

 本作の特徴を言えば、最もアメリカ受けする素材としてイエス・キリストを扱ったことと、シネマスコープを初めて導入した映画であった事(シネマスコープは画面比率が1:2.55サイズ。これは撮影時に横幅を1/2で撮影し、映写時に2倍に拡大して横幅を増して映し出す)。「テレビでは絶対に観られない迫力」の謳い文句が客を呼んだのだろう。

 このシネマスコープにはアナモフィック(歪曲)レンズというのが必要となるのだが、当時は世界に一つしかなかった。しかしフォックスの名プロデューサー、ザナックがこの映画のために特注でもう一つ作らせたと言うのは有名な話(レンズの保管には慎重を期し、護衛をつけて24時間監視させたそうだ)。

 だけど、私が本作を観たのは劇場ではなくテレビ(しかも14インチ)だったりするのが寂しいところではある。

 そのせいか(関係ない?)、どうにも乗り切れないものを感じてしまった。小さなテレビでも充分に本作が金をかけていることは感じられたし、スペクタクル性も受け取った。

 しかし何というか、本作の主題からすると、一人の人間の心理劇に比重が置かれるべき作品なのだが、それを無理にスペクタクルにしてしまったため、バランスがとても悪く感じてしまった事と、あんまりにも舞台劇調の画面構成が、やはりバランスの悪さとして印象に残ってしまった。舞台劇には舞台劇のリアリティがあるのだが、映画にはやはり映画独自のリアリティというものがある。舞台劇調に寄りすぎた作品は、映画としてのリアリティが欠如してしまう。

(評価:★3)

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