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[コメント] 夢は牛のお医者さん(2014/日)

「新入生がいないのは淋しいから、代わりに牛を新入生として迎えよう」という発端がまず大いに奮っていて(三頭の仔牛の名づけ―「元気」「強子」「モグタン」―にまるで統一感がなく、その命名由来が明かされないのもいい)、涙腺を刺激する強さで云えば、やはりこの児童時代の諸シーンが際立っている。
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台本があろうとなかろうと、演出家の指示があろうとなかろうと、撮られるのはカメラレンズの前に広がる空間でしかありえないという点で、「映画」は現実を撮るメディアだ。しかし撮られたものは、撮られた瞬間に既に現実とは異なる何かに変容している。それは最広義の「嘘」「虚構」だろうが、そこにこそ何らかの真実が宿るのではないかという可能性に賭ける――ナイーヴなことを云うようだが、それが「映画」だと思う。たとえば仔牛たちとの別れに泣きじゃくる子供らの顔。たとえば孫娘の大学合格の報せを聞いて喜ぶ祖母の顔。これらが真実でなくて何だろうか。その心の内を解説しようとするナレーションがどれほど煩わしくあろうとも、その点でこれは表情の真実を記録した感動的な映画だ。

(評価:★4)

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