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[コメント] 秘めたる想い(1947/香港)

同時代の本邦メロドラマ、歌謡映画との共通性が興味深く、映画は本邦以上に予算不足露わだが劇作は一頭地抜いており、昔流のフェミニズムの気障が見事に決まり余韻がある。戦中の上海の中国人の意識がよく判るのが大いなる美点。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







抗日戦線で戦う夫からの便りを貧困に耐えながら待つ妻周璇と、夫の友人で彼女を支え続ける高さん舒適の物語。冒頭は瀟洒なアパートの一室で妻の誕生日。高さんは上海事変以来4年間(ということは41年)、夫婦のアパートに同居している。集まったメンバーには変なちょび髭生やした奴もいるが、レジスタンスの面々と後に判ることになる。

日米開戦で銃声が鳴り、日本人が租界占拠の恐れありと夫婦は書類燃やし、上からの命令だと妻の夫光明はいずことも知れず去る。高さんは盲目の母と妻を安アパートに転居させ自分は居座る。彼だけはレジスタンスではないのだろう。皇軍上海占領と報じられ、勤め先の学校は日本軍の司令部にされ、国旗が米から日本に入れ替わる。余りにも肥ったフランキー堺似の憲兵がやって来て平手打ちを喰らわして去り、高さんはいつまでも威張っていられると思うなよと呟く。フランキーは後にも学校に来て書類漁り、オルゴールみつけると途端に悦んでそれだけ没収して帰るコメディがある。殆ど猿並の扱いである。

夫から連絡はなく、妻は新聞の求人を当てにするが、高さんは日本人の騙しの手口だから行くなと云っている。別に教室を設けたらしく、彼は授業で抗日に立ち上がろう、しかし外では喋らないようにと語り、画の額縁の裏に隠した真空管ラジオで重慶の放送を聞いている。妻のために冬服を質入れする。商店ではペーパーが届くたびに刻々値上がりする様、新札は値段が二倍だという本邦戦後のような様も描かれる。

妻は音楽学校同期の柳夫人に出会って、彼女は寄ってくる男たちを猿呼ばわりし、妻は誘われてクラブ歌手になり映画は歌謡映画になる。高さんはあれは親日派ではないかと怒っている。妻は反省して小学校の代用教員になり、しかし黒板の前でも歌謡映画を続けている。高さんは憲兵に捕まり煙草の火を押しつけられ、ああなりたいかと隣室の扉が開くと鎖で両手繋がれ吊るされた裸の男がリンチされ水かけられる一瞬だけの強烈なショット。彼は不本意にも柳夫人の根回しで救われ、憲兵隊の門前で目隠しされて解放され、「云うことは」「中華民国バンザイ」。

飛行機からチラシが撒かれ、拾った人を憲兵が捕まえている。ちょび髭のレジスタンスが戻って光明の遺品を高さんに託け、灯火管制(上海でもあったのだった)の元、妻に云い出せない高さん。安い模型の火事があり、「米軍の空襲だ」「日本の高射砲にやられねばいいが」。日本軍降伏で爆竹のパレード、窓から窓へ喜びの顔が活写される。蒋介石らしい肖像が映され、ちょび髭と柳夫人は喜劇的寄せ集めで夫婦になっている。

そこへ死んだと思われた光明が戻る。しかも片腕を失っていた。捕虜は手術など許されなかったと語る。妻は燕が飛んでゆく、愛の巣を出てゆく、どうしたらいいのと唄い、高さんは出てゆき、冒頭の岩場で思い出のレコードを海にポンポン捨てるラスト。このショットがクールで、昔流のフェミニズムの気障が見事に決まり余韻がある。劇伴はチャイコの悲愴が延々使われて安いが、この手法は当時の香港映画では一般的のようだ。

(評価:★4)

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