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[コメント] 寒い夜(1955/香港)

戦中の混乱で何もできず嫁姑戦争の間でオロオロするだけの無用者インテリを描いてゴーゴリを想起させる巴金原作の映画化。重慶爆撃が描写されている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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白燕への愛と母親黃曼梨との絆の間で引き裂かれて葛藤する汪吳楚帆。二人の不仲は戦争による人心の荒廃と説明される。汪と妻は北京の師範学校卒で、学生時代はテニスしている処など回想され、学校に勤めるが日帝の空襲で休校、本篇は重慶での避難生活が描かれる。

戦争で結婚式もできずに子供連れて三人で母の元へ戻るが、しきたりを経ぬ結婚を母は認めない。同居するも銀行勤めの妻は残業続き、家事をしない彼女を母は嫌う。お前の汚いカネなんかいらないとか、子供の取り合いとか、喧嘩がえげつなく描かれ、妻は子供を置いて銀行の寮に逃げ、母は子供を養っている。こういう場合、本邦では子供への執着で引き裂かれる展開が殆どだが、その点淡々としているのが面白い。これがどの程度まで中国人を描いているかは判らない。

汪は新聞社の校正係。暖房がないらしく部屋の中でもみんなマフラーをしている。汪は肺病に罹り社員から嫌われ、食堂で咳き込んで社員から白い目で見られ、退職させられて闘病。粘着型で組織では窓際に置かれるだろうなあという造形がゴーゴリ好み。看病で一時嫁姑戦争が休戦になる繊細な描写がある。しかし妻は色目使うオールバックに蝶ネクタイの上司に、幹部は支店を引き上げて蘭州に異動するが君だけ特別と云われ、仕送りのため従う。上司のクルマで去る妻を見送る汪の情けなさ、生活力のないインテリの悲哀、に強度があった。

戦勝で爆竹の鳴るなか、汪は死亡。最後は戻った妻と母孫の墓前での再会。厚さ10センチほどの墓石が土の地面に直接差されている。戦争に勝ったから過去は水に流そうと、母が妻を一緒に田舎に連れて行く収束。

冒頭では重慶爆撃の様子が描かれる。民衆が逃げまどい、身を寄せ合う防空壕が映される。そこは廃ビルのようで平場で、日本のような地下施設ではない。汪は逃げた妻を探しに来た、彼女の勤める銀行傍の防空壕に避難しており、彼の住まい近くの防空壕が被災したとの情報で駆けつけ、散乱した瓦礫を歩いている。派手な爆撃の実写フィルムも挟まれている。

重慶(国民政府の首都)には都市機能があり、日本の軍人は見られない。夫婦思い出の瀟洒な喫茶店や場末の呑み屋も描写されている。停電が頻発し、近所からウワアと悲鳴が上がり、電気が灯ると近所から歓声が上がっているのがリアルな描写だった。療養中の汪が母に苦労させたと詫びると停電が終わるといういいショットがある。広東語映画で、英語と中国語、日本語の字幕のあるフィルムで鑑賞。

(評価:★4)

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