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[コメント] アンナの出会い(1978/ベルギー=仏=独)

本作もかなり完成度の高い映画。傑作だ。オーロール・クレマン演じるアンナは映画監督。自作の上映会のために、ドイツのある都市(エッセン)へ訪問する場面から始まる。
ゑぎ

 ファーストカットは、駅のホームの階段(改札口へ降りる階段だろう)を正面から撮ったショット。右側の手前から奥に向かって電車が入って来て停まる。下車した客たちが、階段を降りて行く。そう、このファーストカットは、逆『列車の到着』(1895)みたいだ。

 アンナはエッセンでの上映会で、一人の男性教師−ヘルムート・グリームと知り合うのだが、翌日には旅立ち、ケルン駅で、彼女の元婚約者の母親−マガリ・ノエルと再会する。次にケルンからブリュッセルまでの列車の場面があり、男−ハンス・ツィッシュラーが話しかけて来たりもするが、ブリュッセル中央駅を過ぎて、ブリュッセル南駅で降りる。こゝで実母−レア・マッセリと会い、父や弟のいる家には帰らず、二人でホテルに泊まる。そしてパリに帰ると、ジャン・ピエール・カッセルが車で迎えに来る(なかなかの豪華キャスト)。といった旅程の小さな旅が描かれているのだが、邦題にある「出会い」は、最初の男性教師と列車の中の男だけなので、題名としてはなんかしっくりこない。原題をそのまゝ使って「アンナのランデブー」としても仏語と日本語とのニュアンスの違いがあり、難しいところだが。

 さて、本作も画面の特徴としては、『ジャンヌ・ディエルマン』(1975)同様、シンメトリーな構図が頻出する。建物の玄関前、ホテルのエントランスからドア側を撮ったショットなど。フルショットの横移動も美しい。ブリュッセルでアンナが母親と街を歩くショットなど。また、本作も、ずっとノイズが聞こえている。ホテルの窓外からの往来の騒音なんかは分るが、男性教師の家のような、農場の中の場所でも、喧騒がある。これらも手伝って、ほとんど全てのショットで視覚的にも聴覚的にも強い刺激があり、緊張感が途切れないのだ。

 尚、本作でも、主演女優オーロール・クレマンの裸体が何度も拝める。あと、私が特記すべきと思う場面を少し上げると、ケルンからブリュッセルまでの汽車の中の場面で、通路に沢山の客がいるショットと、通路側車窓から見た外の風景(通り過ぎる駅舎など)が繋がれる部分は、見ていて飽きない面白さがある。また、母親と二人でホテルに泊まるシーンがなんとも良い雰囲気だが、こゝでクレマンは、女性と関係した経験を語る。それと、終盤、カッセルの前でクレマンは一曲唄うのだが、これがフルコーラスぐらい(3番ぐらい)唄う長回しで、ちょっと突出したシーンになっている。そして、本編中、2回、セックスの拒絶が描かれるのも重要だろう(誰が誰に、という点は伏せておくが)。これにより、アンナの孤独のみならず、登場人物の誰もが孤独である、という状況を強化して見せている。

#クレマンが唄った曲は「いつかの二人」というエディット・ピアフの歌のよう。

(評価:★4)

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