[コメント] 水は海に向かって流れる(2022/日)
部妻川駅という架空の駅。主人公である直達−大西利空と榊さん−広瀬すずの出会い。この二人だけでなく、他の人物含めて、私服の場面は色彩に溢れた衣装だ。また、主な舞台となる家屋は、昭和の日本建築だが、庭にトーテンポールがあり、その外観ショットから原色が目に留まる。そして、部屋の中は、赤系、褐色系を基調としながらも、青色などあらゆる色が散りばめられている。照明も美しい。高校の教室の場面なんかもあるが、私は早く、家の中のシーンに戻って欲しいと思いながら見た。
さて、直達−大西は、通っている高校に近い、叔父さん−高良健吾の家に、居候をするつもりでやって来たのだが、実は叔父さんの家ではなく、シェアハウスだった。というワケで、榊さん−広瀬は同居人の一人。他の同居人には、女装の占い師−戸塚純貴と東大教授で民俗学研究者の生瀬勝久がいる。あと、戸塚の妹の楓−當真あみが、直達−大西のクラスメートという設定で、彼女はどこで暮らしているのか不明だが(シェアハウスには住んでいない)、度々シェアハウスにも現れる。これらが主要人物だ。
基本、直達−大西がプロットをドライブし、榊さん−広瀬がそれに対応するというカタチで進む場面が多く、この二人がダブル主演と云えると思うが、ただし、アバンタイトルの終わりは、広瀬がベッドに横臥しているショットで、唐突に海辺に佇む彼女のショットが繋がれ、そこにタイトルは入るので、やっぱり、広瀬が主演なのだ、タイトルを象徴しているのもこの人なのだ、と感じさせる。このタイトルインの処理も綺麗だと思う。また、このショットは後半で出て来るので、フラッシュフォワードだ。
あと、ちょっと気になった点を書くと、広瀬は料理好きで、まず牛丼(ポトラッチ丼という名前で呼ばれている)、後のシーンでポテトサラダ、カレーライス、ゆで卵などを作るのだが、バーベキューのシーンでも広瀬のみが作成担当、という役割り分担に見えてしまっているのは、時節柄気になった。それとも絡むが、広瀬の職場のシーンが全く無い。選択と集中は大事だが、ワンカットぐらいあっても良かったと思う。
最後に色遣い以外の良い部分をあげる。全編に亘ってシェアハウスに近い川の土手(道、河原、橋)が上手く使われている。この土手の風景が出て来ると、家に近いと思わせる。また、北村有起哉と坂井真紀に対する倫理観について、私は生硬かと思う面もあるが、しかし、全く同情的に描かれないという徹底は、映画として良い部分だろう。それと、坂井真紀の家の近くで、広瀬と直達−大西が旅館に一泊することになるが、この場面も横臥の演出がいい。アバンタイトルの広瀬を思い出させる。さらに、翌朝の場面が、タイトルインと同じショットなのだ。あるいは、エンディングで教室から飛び出して行く直達−大西を見送る楓−當真の表情が挿入されるのは簡潔な良い演出だと思う。冒頭の夜の雨に呼応するように、ラストが日照り雨、というのもいい。あともう一つ、全編で数回、イマジナリーライン越えの切り返しがある。例えば、玄関先で、北村と広瀬が対峙するシーンが顕著だが、その前に、広瀬と直達−大西の場面でもある。前田哲の演出は(近作3作を見たが)、見る度に面白くなっていると思う(しかし、売れっ子ですね)。
#備忘。猫の名前、ミスタームーンライト(ムーちゃん)。
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