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[コメント] 追想(1975/仏)

サイコパスの医者ってマジ怖い。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作はある時に映画の紹介記事を見て印象に残っていて、是非一度観てみたいと願っていたのだが、たまたま映画館にかかるという情報を得て(ちなみに前後して戦争のはらわた(1975)が上映されていたので、二本とも観られた)観てみた。

 聞きしに勝る快作というか、怪作というか。これは凄い。

 舞台は第二次大戦時のフランス。第二次大戦ではよく映画になる場所である。特に連合軍侵攻後の戦いについて描いた作品は多い。中にはレジスタンスの戦いを描いたものも結構ある。一応映画のジャンルとしては本作はレジスタンスの抵抗を描いた作品の一本と言う事になる。ジャンル的にはそのまんまと言って良い。

 フランス占領下でのレジスタンスの戦いというのは、傍若無人なドイツ軍の行いに我慢していた住民が連合軍のスパイとして活動するとか、あるいはもっと大きなレジスタンス組織と連携を取ってゲリラ活動を行うとかになるのだが、本作は全くそれと趣が異なる。

 本作の最大の特徴は、レジスタンスがたった一人。しかも全く連携も何も取らず、単なる復讐者として描かれる。しかも勝手知ったる古城の中で一人一人血祭りに上げて。

 どっちかというと本作は殺人鬼を描いたスラッシャー映画としての側面の方が強い気がする。主人公のジュリアンは古城の見取り図は頭の中に入っていて、近道や抜け道を使って神出鬼没で出現しては、一人でいるドイツ人を手早く殺して去って行く。怪力や超能力は無いが、それだけで充分人並み外れた行動力を持つことになる。だからジェイソンとかフレディとかの殺人者の視点になってる感じがする。

 そういう視点で見てみると、「スラッシャー映画の定義」という事についても思いを馳せられる。

 スラッシャー映画を面白くするのは、単なる殺人者が出てくるよりも、その殺人者が淡々と殺人を繰り返し、更に何を考えているのか分からないところの怖さがあるかと思われる。

 このジュリアンの行動は妻子を殺されたという事が動機になってるのは確かだが、彼は感情を荒げたりしない。無表情で黙々と作業のように人を殺していく。

 確かにその合間合間に幸せだった頃の記憶が挟まっているので、それがジュリアンの深い悲しみを示すものと解釈する向きもあるだろうし、そちらの方が解釈としては正しいのだろうけど、むしろその演出こそがジュリアンの空恐ろしさを強調してるような気もする。

 ラストシーンで医者としての日常に普通に戻っていくのも、妙に怖いものがある。なんか薄ら寒さを感じる作品に仕上がってた。

 でもだからこそ忘れられない作品でもある。

(評価:★5)

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