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[コメント] 青春祭(1985/中国)

思想改造のため下放された村は享楽的な土地柄で、主人公は文化の違いを体感する青春祭を過ごす。これもまた文化大革命への抵抗の物語だろう。ニューシネマの方法で撮られた雲南省のタイ村は美しく、魔法使いのようと云われる90歳のお婆さんの佇まいが愛おしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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そこは享楽的な村だった。男と女の集団が一定の距離おいて対峙して「挑発し合う」歌を唄いあう。娘たちは仕事が終わると裸で泳ぐ。作業の評価は美人だと上がる。鏡が珍しいらしく行商人が姿見を一回一銭で見せて商売になっている。夜半には神社のあちこちで求婚。主人公のリー(リー・フォンシュイ)が村の娘組に馴染めないと訴えると、面倒みてくれている大人しい主人がなんと「おしゃれしなさい」と云う。

ロンパリの眼が素晴らしい年輪刻んでいる魔法使いのお婆さん(『おばあちゃんの家』のキム・ウルブンさんが想起される)は、リーがカーテンで民族衣装つくると喜んでくれる。若き日の彼女の持ち物だったのだろう、何と銀のベルトをくれる。母は貴女が好きなんですと主人が云ってくれる。井戸場できれいと褒められ、序盤から角笛吹いて怪しかった水牛使いのプビが花差し出す。

リーはルソーの「懺悔録」読んでいるボーイフレンドのレン・ジャ(フェン・ヤンチェン)と、彼等は「漢民族のように恥ずかしがらない」と語り合う。「ここにずっと居たいのか? お歯黒になるんだぜ」。彼の乗る二頭立ての牛車がとても画になる。終盤にはトラクターに乗り換えているというユーモアもあった。水牛が捌かれた収穫祭の夜のダンス、松明と奇妙な動物を模した被り物。

激しい恋愛の世界はいいことばかりではない。リーは世話になった家の息子に恋慕されて隣村へ避難する羽目に陥る。小学校教員になり学校の二階に住む。これが『あの子を探して』を想起させる風景だった。お婆さんが亡くなり(孫の嫁と間違えていたと云われる)その野辺送り。赤土の道を行く激しい色使いが施される。ここまでの瑞々しい画質が乱暴に覆され、喪失の心が表出される。

村までは何日も歩いた村への行程。百日も続く雨季の田植えでは手が凍る。芝刈りで原生林に迷う。父は下放、次に私。先生から勉強続けろと郵便が来てリーははじめて希望を感じている。それから母も下放されたと連絡が入り、私の家はどこだと嘆いている。リーはは大学に戻ることができ、ボーイフレンドは村に残されて土石流に呑まれた。呑まれて村はなくなった。ただ白鳥だけが到着初日と同じように群れて飛んでいる。大人の女性になって戻ってきて、リーは被害を嘆く。

毛沢東の大躍進政策のうち、農村部での鉄鋼生産の失敗について、山崎雅弘はこう書いている。「溶鉱炉の燃料として使用される薪を確保するために、大規模な森林伐採を行ったため、洪水や地滑りなどの自然災害が各地で頻発することとなった」(「中国共産党と人民解剖軍」)。ラス前の泥に埋もれた村はこれに違いなく、この点でも映画は毛沢東を批判している。下放にもいいことがあったのよ、という映画では全然ない。主人公はこの美しかった村と、別の出会いと別れがしたかったに違いない。

原作のタイトルは「ある美しい場所」。ニューシネマの影響が見られる撮影が素晴らしい。全ショット、記録したい画が撮られているのが伝わってくる。湿気たタイ村の光景が忘れ難い、

(評価:★5)

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