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[コメント] 八千里の雲と月(1947/中国)

抗日戦線の描写は本邦でほとんど観る機会がなく稀少。これと国民党との対決を繋ぐ、それぞれ興味深い同時代の報告。善悪明快で公式見解に近いが、それゆえのリアルがあった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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8・13は中国では日中戦争開戦の日(現在は柳条湖まで遡るから違うらしい)。前半は移動演劇団「上海救国演劇隊」の抗日上演でこれがいい。中国が展開した撤退重ねる遊撃戦、この描写を観るのは初めてだった(観る機会がないだけで、抗日映画には大量に含まれるのだろう)。映画は実際の映像も交えてセミドキュメンタリーにしており、鈴なりの客の汽車の映像だけで訴えるものがすごい。

冒頭の路上の寸劇、サクラを入れて客を騙して惹きつけるという手ハプニング芝居が面白い。老人に化けた陶金が娘役の白楊を鞭打ち、激した客に白楊が父を許せ、国を追われて錯乱している、憎っくきは日本軍、とやって盛り上げるのだった。♪ 9・18日本軍、実に凶悪、中国軍、恭しく瀋陽を譲り渡し、みたいなトーキングブルース調の即興が胡弓に乗せて歌われる。

兵士と村民を迎えた演劇は、故郷を護れ戦うんだと村人が竹槍持って迎え撃つ。♪日本軍の奴らの首を叩き斬れ、殺せ、と客と大合唱。侵略されたらこれくらい当然だろうと思わされる。そして、勇ましい劇に対して実際は撤退しているのがリアル。我々には狡猾な作戦という印象が強いが、撤退する方は悔し泣きに泣いている。これも発見だった。

そして♪買い占めによる物価上昇が抗日の障害、と唄われ、これが白楊の従兄や叔父の姿だと後半に描かれる。47年の国共戦争当時の、判りやすい国民党の批難。「戦時中は後方で儲ける好機なのだ」と滔々と説く叔父。戦争成金みたいなのはどこにでもいるものだ。

終盤は白楊が新聞記者になり従兄らの不正を暴く(近隣の土地買収でネタが小さい)が、過労で倒れ、「彼女が死んだら私たちのせいでは」と「?」で〆られる。この手法、サイレントで観た記憶がある。この件は事情が個人的に傾きメロドラマに近くなり印象が薄れた。それよりもっと従兄の悪事を羅列してほしかった。

(評価:★4)

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