[コメント] 君は行く先を知らない(2021/イラン)
ジャファール・パナヒの息子パナー・パナヒの初長編監督作は、イラン人一家の別離に重ねて「家族の情愛」や「弾圧の影」や「因習批判」を描くにあたって、わざと常套アプローチをはぐらかすような語り口で物語化する。その破綻寸前の実験性に★ひとつ加点。
冒頭いきなりの「抒情的なピアノ曲と幼い次男のしぐさ」のわざとらしさに、私の嫌悪感は一瞬で沸騰し"しまった、こんな映画観るんじゃなかった"と思ったことを告白する。感情を煽るようなピアノ曲が流れ続けるなか、そのショットは、道路わきに止められた車内の後部シートにいる姦(かしま)しい次男とギブス姿で悪態をつく父親、助手席でそわそわと切迫感を漂わせる母親、そして感情なく遠くを見つめ無言で車外にたたずむ長男の、どこかぎこちない関係を長回しで見せ終わると同時に、そのピアノ曲の違和感の正体が一瞬で明かされる。それはパナー・パナヒ監督の脱常套演出宣言だったのだ。私の嫌悪感は、まんまとその仕掛けにひっかかった結果だったことに気づく。
以降、車の不調と家族に背を向ける父親。自転車レースの青年の転倒。いつの間にかの老犬の失踪。口パクの流行歌による疑似ミュージカル。超遠景で繰り広げられるクライマックス。バットマンカーの夢想と天空で眠る父子。そんな「はぐらかし」を駆使して家族の別離の情を抒情として描かないことで、逆にその裏側に潜んだ「影」の存在を印象づけようとしているかのように感じた。
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