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[コメント] ウォンカとチョコレート工場のはじまり(2023/米=英)

開巻は海。海上の船のショットから始まる映画の系譜。カメラは舷側の窓をすり抜けて、マストの側にいるウォンカ−ティモシー・シャラメへ寄っていく。のっけからシャラメの歌唱によるミュージカルシーンだ。
ゑぎ

 流麗なカメラワークとカット繋ぎに目を瞠る。本作は、少なくも冒頭から中盤まで、画面は実に綺麗だし、楽曲も甘美な良い曲ばかりで、感激しながらずっと涙目になって見た(ウォンカのチョコレート店の開業シーンあたりまで)。

 では、後半のプロットには極力触れずに、気に入った造型を書き留めよう。まずはミュージカルシーンがどれも良く出来ているのだが、チョコレートの町「グルメガレリア」を舞台とするモブのダンスシーンもいいけれど、私は夜の動物園からフラミンゴを先導することになる、沢山の風船での飛翔シーンが一番美しいと思った。あるいは、チョコレート店「Wonka」開店シーンの奇抜なプロダクションデザインは『チャーリーとチョコレート工場』の工場内部を想い出す。

 また、装置の使い方ということで云うと、冒頭の舷側窓のすり抜け移動から始まり、宿の女将スクラビット−オリヴィア・コールマン登場シーンの扉の覗き窓、宿の各部屋の窓を使った「奴隷」たちの会話シーン、あるいは、チョコレート店3店舗の2階の窓、そしてウンパルンパが登場するウォンカの部屋の窓や、地下密室での液体チョコ責め(絶体絶命の水責めみたいな)場面における天窓、といった執拗な窓の活用は指摘すべきと思う。他にも、ボストンバッグのようなチョコレート製造装置のガジェットとしての魅力についても書かずにはおれないものだと思う。特に、ウォンカのママ−サリー・ホーキンスのフラッシュバックを導くパラパラ漫画風の見せ方の部分は何て素敵なんだろう!

 全体に非常に良く出来た楽しい映画だと思うが、ちょっと期待外れだった(私の好みと合わなかった)点も含めて、もう少し書いておく。第一に、シャラメのウォンカが好青年過ぎる点。ヒュー・グラントによるウンパルンパの造型含めて、本作は、ぶっ飛び具合が僅少に思う。例えばデップのウォンカの方がずっと奇人の感じがあった。あと、中盤以降のプロット運びは、性急過ぎる感覚を持った。まるで3日ぐらいのお話だったように感じる。地下洗濯場での仕事場面や、地下水道を活用したゲリラ商法、文字(英語)の学習場面などで、もう少し、時間経過の描写があれば、この性急な感覚は解消できたと思う。

 とは云え、魅力的な細部はまだまだ多い。「貧乏」という言葉を聞くだけで吐き気を催すレスポンスの反復。あるいは、ハ!を2回云うこと(ダブル・ハ!)がヒラメキの合図となる反復。あと、女将のコールマンと共に、その相棒のようなブリーチャー−トム・デイヴィスがワタクシ的には良い造型だったと思う。特に、短パン姿で出現する場面からの唐突な転調ぶりが好き。

#ウンパルンパの歌などで、1971年の『夢のチョコレート工場』の楽曲が使われている。

(評価:★4)

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