[コメント] ほかげ(2023/日)
子供が何かを盗んで行く。続いて利重剛が酒を持ってやって来る。趣里は金を渡して、その後、荒々しく抱かれる。趣里が白い腕を出したショットでタイトル・イン。脚と腕の映画。強烈に腕を意識させるショットは終盤にも出て来る。
全編、緩やかな昔の映画のような(サイレント後期に流行したような)ディゾルブ繋ぎを繰り出す。それと共に、随所でジャンプカットとポン寄りっぽい繋ぎも。また、全編、現代的な(最近の映画でよくある)手持ち(ハンディカメラ)の演出かと思ったが、後半になってフィクスもある。さらに、全編、趣里の家が舞台なのかもと予想した。少なくも前半は、カメラはこの家から出ない。
趣里と少年と復員兵−河野宏紀の奇妙な3人の生活。少年のカバンの中身と、座敷の襖の向こう、という2つの謎を提示する。いずれも、けっこうアッサリと謎が明かされるが、襖の向こうは後半にも二段構えで別の謎と種明かしがある。復員兵の持っていた粗末なランプ。その炎だけでの照明。小学校の教科書。うなされる少年。うなされる復員兵。動物園への遠足ゴッコと、復員兵の急変。趣里と少年との関係は母子というより男女の関係を匂わせる。しかし、利重剛が趣里の顔を見て驚いた後に見せられる風景には震撼とし、彼女は幽霊だったのかと思ってしまった。
後半は、いきなりのギアシフト。少年と森山未來との場面になる。少年の長い小水。森山は右手が使えない。川で左手だけを使って魚を捕る場面の嬌声。森山のプレゼンスには今更ながら唸る。森山も夜うなされる。座敷牢の男を少年が見るシーンのちょっと引いたミタメのショットは、はっきりしたフィクス。森山らが目的地へ着き、田舎の家の縁側を見るシーンのミタメショットもフィクスなのだ。
そして、森山の退場ショットは、左の腕を突き上げる、まるでダンスのような所作の演出だ。私はこゝでエンドで良かったと思う。この後の、エピローグのように少年のその後を見せる部分で、随分とお説教臭くなったと感じた。趣里の謎の種明かしシーンも無かった方が私の好み。ただし、満を持したように闇市の風景が描かれる構成は良いと思った。このエピローグがあるので、本作の主人公は、少年だったのだと思える。
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