[コメント] ファースト・カウ(2019/米)
犬が何かを掘りあてる。女性も掘る。掘り当てたモノは伏せておくが、はっきり示されるショットがあるので、この後のプロットが収斂する先は明示されており、我々はエンディングを想定しながら見ることになる。
場面は西部開拓時代にシフトする。明るい可愛いらしい劇伴になり、オレンジ色のキノコを取る男の手と足。森の中。裏返っているイモリを返してやる。優しい男だと思わせられる。何かの音に怯えて仲間の所に戻る。この男は猟師グループの雇われ料理人クッキー−ジョン・マガロ。食材が欠乏していることを罵られる。夜もキノコ散策。そこで中国人のキング・ルー−オライオン・リーと出会う。ロシア人に命を狙われていると云うので、優しいクッキーは、匿ってやる。
本作は、このクッキーとキング・ルーとのバディムービーだ。ちなみにクッキーの姓はフィゴウィッツ。私はポーランド等の東欧系移民かなぁと思いながら見た(ジョセフ・L・マンキウィッツがポーランド系、どいうだけでの連想だが)。2人は川沿い(コロンビア川?)の砦の近くの集落で共同生活をするようになる。タイトルは、この地に初めて持ち込まれた牛(乳牛)を意味する。
ライカートが描く西部開拓時代ということで、どうしても『ミークス・カットオフ』を思い起こすのだが、あの映画が平原などの開かれた、乾いた場所を舞台としていた(水場を探して彷徨う映画だった)のに対して、本作は森や水辺、泥濘の土地が意識して選ばれている。しかし、主人公のクッキーの登場が足のショットであったり、彼の靴(ブーツ)にフォーカスするシーンがあったり、といった部分は『ミークス・カットオフ』のインディアンの足(そのモカシン)を思い出させる。あるいは、何よりも、銃撃などの暴力描写が意図的に割愛されている(当然、起こったはずの銃撃場面が隠蔽される)といったプロット構成の選択に、2作の相似(ライカートらしさ)を感じることができるだろう。いや、2人の男の友情、森や水辺といった背景で云うと『オールド・ジョイ』との近似こそ指摘すべきかも知れない。
あと、脇役もいい。まずは、牛の持ち主である、イギリス系の裕福な商人(仲買人)はトビー・ジョーンズだ。やっぱり、この人の押し出しは大したものだと思う。彼の屋敷にクッキーとキング・ルーが呼ばれたシーンでは、パリの流行に詳しい砦の隊長−スコット・シェパードなんかも面白いけれど、先住民の有力者を『デッドマン』や『ゴースト・ドッグ』のノーバディ−ゲイリー・ファーマーがやっていて、これは懐かしかった。さらに、トビー・ジョーンズの妻役はリリー・グラッドストーンだ。
さて、帰結のネタバレとも云える冒頭の現代パートは必要だろうか。これによって緊張感をそがれる観客もいるのではないかと思う。私は逆で、どのようなかたちで画面化されて、冒頭に繋がるのか、という強烈な関心でもって、テンションが持続した。このあたりは何を重視して映画を楽しむかで感じ方が異なるだろう。上でも書いた、決定的場面の割愛も含めて、従来の型通りの構成ではない。これは一種の挑戦だろう。私は、本作もまた今世紀における決定的に重要な西部劇の一つだと思う。
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